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「いかにも雪が降りそうな寒さだ」
バス停で、自分の乗るバスを見送ったあなたは澄んだ星空を見上げました。ただ雲がなかっただけ。いつ雪が降ってもいいように、夜は着々と準備を進めているようでした。冷え切った地面はそっと雪を受け止めるのでしょう。
時刻表通りなら、私が乗るバスが来るまであと三分ほど、私とあなたに残された時間はあとわずかです。
「あの」
「ん?」
「確かめてくれませんか?」
意を決して、私は指先の赤くなった手をあなたの前に差し出しました。
「またこんなにして」
あなたはすぐに私の手を両手で挟み込み、摩擦熱を起こそうとやさしく擦りました。
「そうではなくて、触れてください。直接、その手で」
「えっ……」
戸惑う声に、思わず俯いてしまいました。
あなたは絶対に、私を好いているはずです。私と同じくらいに。もしかしたら、それ以上に。わかっているのです。ですが、やはり素手でなければ伝わらないものがあるのです。
あなたは手袋を外し、外套のポケットに仕舞いました。そして、慎重に伸ばされた指先が触れる直前、確かめるように私の顔を覗き込みました。
その時、二人の間に浮かんですぐ消えた白い息は、どちらのものだったのでしょう。
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