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はじめてあなたが私に触れたのは、とても寒い冬のことでした。
寒がりでいつも手袋をしていたあなたと、むずがゆく感じてしまい手袋が苦手な私。滑らかなカシミヤのマフラーを巻くあなたは、赤くなった私の指先を不憫そうな目で見ていました。
「見てる方が寒いんだって」
そう言いながら私の手を取るあなたはいつもより大胆で、夕闇迫る雑踏をすり抜けるその横顔に、わずかに紅潮した頬に胸が高鳴ったものです。
行き先はすっかり常連と化してしまった喫茶店で、あたたかな室内で過ごす時間はとても素敵で穏やかなものでしたが、ほんの少しだけ私は、寒空の下、ふるえながら公園のベンチで寄り添う学生たちを羨ましく思いました。触れそうなくらいに頬を近付けた恋人たちの微笑みは、小鳥の囀りのように愛らしいのです。
珈琲缶で暖を取りながらあなたと手を繋いでいられたら、なんて。淹れたての珈琲とホットサンドを前に願うのは無いものねだりなのでしょうね。もしかしたら彼らの方も、私たちに対して似たような感情を抱いていたかもしれません。
職場の方を介して出会った私たちは二十半ばで、互いの好意をあけすけに語るような勢いは持ち合わせていませんでした。ただゆっくりと、はらはらと舞い落ちる粉雪のような想いを、溶かしながら固めながら募らせてまいりました。
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