1人が本棚に入れています
本棚に追加
窓から放り出され、鈍色の空が瞳に映った。
鋭く全身を劈く痛みに涙が溢れる。身体が柔な雪に沈んでいく。其れ等の刺す様な冷たさが、ほんの幾分か椿の痛みを麻痺させた。
首が回らず視線だけで周辺にに視線を送る。雪が椿自身の血で紅かった。染め上げられた雪は何処までも続いていた。
向こうから『ずるり、ずる、ずるり』と何かが這って近づいて来る音がする。
ぶるりと背筋が震える。
音は頭上まで来て来てぴたりと止まると、あらぬ方向に曲がった椿の右手に触れた。
頬に自身の暖かい涙が一筋伝う。もう、冷たさが分からない。はらはらと止めどなく、粉雪が積もっていく。いつの間にか身体は半分以上雪の衣に埋もれていた。
それが桐生院椿の雪の日の思い出だった。
最初のコメントを投稿しよう!