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「おはよう」
姉の声にハッとなって体を起こす。涼やかだった風鈴の音が、どことなく「寒い」に変わっている。
いま何時だろうと時計を探し、居間の時計はとうに壊れているのを思い出した。
振り返った先の姉は変わらず縁側に腰掛けて庭を眺めている。さして歳の離れていない姉妹のはずなのに、この人は日がな一日縁側に座って何を考えているのだろうと不安にさえなってくる。
「お姉ちゃん、いま何時?」
「もうすぐ五時ってとこ」
「やっば、もう日が暮れるじゃん」
「どこかに行くの?」
「晩御飯!」
姉ひとりになって以降、この家で料理が振る舞われた記憶がない。姉とて料理ができないわけではないはずだが、妹のためにわざわざ作るのは面倒なのだろう。幸いにもこの家からコンビニまで自転車で十五分ほどの距離だ。
「自転車借りるね」
玄関先に下げられた鍵を取りながら声を掛ける。
「お姉ちゃんは? 何かいる?」
「いまから行くの?」
「そうだよ!? 話聞いてた!?」
いったい何を聞いて返事をしていたのだろう。こんなだだっ広い家にひとりきりだと、痴呆まで入ってきてしまうのか。
「危ないからやめなさい。あと、よく行ってたコンビニはとっくに閉まってるよ」
「うそっ!?」
じゃあどこで晩御飯を調達しろと言うのだろうか。へなへなと座り込む私に対し、姉がくすりと笑う気配がした。
「朝ごはんは作ってあげるから」
「晩御飯も作ってほしいんだけど」
「でも、お腹空いてないでしょ?」
「………………言われてみれば」
確かに、日が暮れるからと慌てて晩御飯のことを考えたが、あまりお腹は空いていない。午後まるまる眠りこけていたから、さしてエネルギーを使わなかったということだろうか。
「うー、でもなんか口寂しい」
「机の上のローズティー、飲んでいいわよ」
姉に言われて卓上を見る。いつの間に用意したのか、電気ケトルとローズティーが並んでいた。香りも良いし、もしこの先お腹が空いても、空腹を紛らわすのにはちょうど良いかもしれない。
「飲みたくなったら、自分で淹れるよ」
電気ケトルの中を見れば水は入っている。姉が先に飲まない限り、一杯分くらいはあるだろう。
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