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鈴、と風鈴が鳴った。
「寝てた!?」
デジャブのように跳ね起きる。外は明るいが縁側に姉の姿はない。時刻を確認しようとして、しかし居間の時計は壊れているのを思い出し、スマートフォンの画面をつける。
「あれ」
そこに示された時間は午後三時。日付は帰って来た日の日付。
「じゃああの会話は、」
夢?
それにしては妙にリアルだった。しかしいくらなんでもこの最新の電子機器が日付を間違えることはないだろう。となれば、やはりあれは夢だったのだ。
机の上には何もなく、持ってきた荷物の位置もそのままだ。ただ、姉の姿だけが見当たらない。いつもなら、寝起きを揶揄うためだけに居座っているような人なのだが。
「お姉ちゃん?」
眠りこける直前まで縁側にいたのが嘘のように、影も形もなくなっていた。
「どこ行ったんだろう」
なんとなく、彼女の行先は知っている気がして立ち上がる。さきまで姉が座っていた縁側に立つと、庭がよく見渡せた。
かつてはきれいに整えられていた庭も、世話をする人のいない今となっては荒れ放題だ。きれいだったときの庭ならまだしも、何が出てくるかもわからないようなこの空間を眺めて、姉は何が楽しいのだろう。
「あー、でも」
姉は確かおじいちゃん子だった。よく一緒に、庭の手入れをしていた気がする。そんな姉なら、庭に何かしらの思い入れがあってもおかしくはないだろう。
この荒れ果てた庭が、彼女の望む姿なのかはわからないけれど。
「お姉ちゃん」
なら、姉がいるとすれば、この庭だ。庭先に置かれたサンダルを履く。ひどくボロボロな上に雑草が足を擽るが、玄関からわざわざ靴を持って来るのも面倒だった。
ざくざくと、生い茂った草木を掻き分けて奥に進む。手入れされていた頃よりも広く感じるのは、かつては見えた塀がもうほとんど見えないからだろう。
「お姉ちゃんってば」
庭の中心あたりに来たところで、ぐるりと周囲を見渡す。姉の姿はなかったが、代わりに一ヶ所、不自然と場所を見つけた。
「あれ」
物置の戸が、開いていた。
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