風鈴と薔薇

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 姉の死から一年が経った。今年、私も成人になる。  あの家は、結局どうなったのか、気付けば更地になっていた。相続云々の話は、難しいのであまり関与していない。  淹れたばかりのローズティーを口に運ぶ。姉が飲んでいた当時は、夏にあったかい飲み物を飲む姿に辟易したものだが、今となっては自分がまったく同じことをしている。母はいい顔をしないけれど、姉が残していったものを飲んで、すっかりハマってしまった。 聞くところによると、祖父の犯行は夏と冬、特に夏に集中していて、それ以外――つまり薔薇の香る季節は、何もしなかったのだそうだ。だから姉は、薔薇の香りを好んだ。その姉の好んだ香りを、私もまた、好きになった。  窓を開けると、生温かい風が室内を抜けていく。窓辺の風鈴が涼やかな音を立てた。 了
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