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或る国の侍従の報告〈上〉
姫様は翌日に虜囚の内一人を天蓋から垂れる帳の向うで折檻し候。折檻と雖も不相変淫奔な姫様の事故に、脳髄に宿りし淫魔の類の思召しに御追従なされたので御座候。彼の虜囚の男子は姫様の寝首を掻く事無之、敵国の兵と雖も姫様の魅惑なる肉体乃至甘美なる囁きを前に籠絡され候。兵が奉じる教え悉く残骸に相成り、救世神の威光は姫様の帳を侵す事無之、男子、淫蕩に堕落し候。故、三日と経たず淫魔の搾取に耐え兼ね、宮廷から遠くに有る姫様の生贄の墓の何処かに葬りし候。淫魔とは西方の悪魔の一也。大罪の内、淫を司る者の一也。西方ではサクバスと申す由、申し上げ候。
姫様が天地開闢爾来初の美神人で有る事に無之依存と候えども、サクバスの威力は絶大也と思われたく御座候。姫様に籠絡されし男子が、如何なる叛逆心を抱こうとも降伏する様、サクバスの掌に淫される有様と等しく御座無候。姫様はサクバスに操られ候えども、サクバスは姫様の如何なる意志にも左右され間敷き威勢有之候。無論、我らサクバスを討伐する事能わず。サクバスを斬る事即ち姫様を殺害る事で御座候。姫様曰く、私は曲学阿世の徒との事で御座候。拠て、虜囚等を私の前に裸体で差出し、彼らを一夜の慰めにする様、御申し付け被候。曰く、具足戒の桎梏を断事、唯一の正道也。然し、私は大慈大悲の――を信奉し候事、申し上げ候。咄。
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