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間違い無い、と思った。この人は嘘吐きだ。百あったら本当の事を一つ言うか言わないか、その位の嘘吐き。言動や仕種からの確信があった訳では無く単なる直感と言う奴だが。 熱い珈琲を見詰める眼は冷たく、口元に浮かべた笑みこそ嘘臭い。彼が紡ぎ出す言葉のどれが本当の事なのか、見極めるのは自分自身。この人に関わった時点で命は危ういのだから。
「僕を……殺すの?」
「そんな事しないよ」
冷たい眼が此方を見る。この人は嘘を吐くのに、自分にはそれが出来無い。絶対に。何故だかそう思えた。考えて居る事を全て見透かされて居る様な、そんな気がした。
「君は俺に着いて来るよ。自分の意思で」
僕はきっとそうするだろう。 胸の辺りがぐっと詰まる様な感じがする。呼吸が苦しくなる。経験した事の無いこの嫌な感じは何なのだろう。何かされた訳では無い。そもそもこの人が僕に何かしてくる事なんて絶対に無いのだから。
「時限装置みたいだね、君は」
この人と僕とを繋ぐものなんて無かった。無い筈なんだ。だってこの人は、僕が誰に何を言おうが傷付く事は無い。それなのに。
「え……っと……」
「ユラ」
「ユラ、さん……」
何度か深呼吸して、気分だけでも無理矢理落ち着かせる。何がどうなったのか解らないが、僕がこの人に強く惹かれて居る事は間違い無い。
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