005

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迎えが来るからと知らない部屋に押し込まれた。 どの位待ったのかは良く解らないが、少なくともあれは嘘でこのまま死ぬのでは無いかと絶望する位は待った。実際は数十分だったと思う。何れは売られて殺されるのだとは知って居たが、今日までそれなりに幸せな日々を送ってしまったので残念ながら死にたいとか怖くないとかは微塵も思わなかった。寧ろ死にたく無い。そう思ったら何だか泣けて来て、誰も居ない部屋で独りで泣いた。 「……泣いてる」 ノックもしないで入って来たのは、黒いワンピースの少女。その後から来た少年を見て私は更に泣いた。何故かと言うと、彼が殺しに来たのだと思ったからだ。彼の手には何時か映画で観た様な恐ろしい凶器があったし、失礼ながらその風貌も如何にもそれらしく見えた。凶器に加えて顔にタトゥーなんて正気の沙汰では無い。少なくとも私の感覚では。 「何で泣いてんの?!」 黒いワンピースの少女が私の傍に座り、涙で濡れた手を取る。 「……良い子、良い子」 何だかぎこちなく喋りながら、少女は私の手を優しく握ったり瞼にキスをして宥めてくれる。明らかに私より子供であろうけれど。 「えーと……大丈夫?」 少年が気まずそうに言う。 「……猟が怖い、から」 「何で?!」 間違っては居ない。どうやらこの二人が迎えの者らしい。未だ少しの間、私の命は助かった様だ。取り敢えず、今の所は。
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