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迷子の仔猫たち 12(猫を狩る 45)
12
「うちの娘に余計なことを言わないでくださいね。それから夫に謝る気はありませんから帰ってください」
「帰りません」
「じゃあ、勝手にして。私たちは出かけるから」
郁子が花梨の短い髪を乾かしている間に、携帯をチェックした。十時に行くとメッセージを送ったけど、既読にはならない。
「あなた高校生? こんな時間にどこに行くの? 郁子さんも小さな子供を置いて出かけるなんでどうかしてるわよね」
「こんな時間って、うちの母も、こんな時間に普通に出かけてましたよ。私が小学生のころからファミレスで働いてたので。でも、外に女の人を作ってた父親のほうが嫌いだったから、母と一緒に家を出ました」
花梨はパパを嫌いになるようなことをさせているのは美里ではないかと、言いたかったけど言わなかった。ママのことは嫌いだった。でもパパとおばあちゃんの家に残りたいとは思わなかった。
「葉月さん、ちょっと小田さんのところに行ってくるわね」
郁子は、花梨を連れて家を出て行った。
「それに、今日は私の友達がちょっとトラブルにあってて……、いっしょに来てくれるようにお願いしたのはあたしなんです」
郁子が帰ってきて、身支度をするために寝室に入っていった。美里は今にも泣きそうな顔で葉月を見つめている。
「葉月さん、少し早いけど、ちょっと寄るところがあるから、もう出ましょう」
郁子は葉月に向かってそう言うと、
「そういうわけだから、お帰りいただけますか。今日は立て込んでいますので」
と、美里に向かって事務的な口調で言った。
「帰りません」
「そう。じゃあここにいても構わないけど、余計なことはしないでね。裕二の着替えとかを持っていきたいのなら、帰ってから私が用意するから、勝手に持って行かないでね」
「……違うのに……そんなんじゃないのに……どうしてわかってくれないんですか? 谷村さんは私のことなんか好きでも何でもなくて、郁子さんがしたことに、ものすごく傷ついてて……見てられないって、何度も言ってるじゃないですか!」
美里が顔を覆って、泣き始めた。
「ごめんなさいね。いじわるを言ったつもりはなかったの。じゃあ葉月さん、行きましょう」
葉月は玄関に置いてあったキャリーケースを持って郁子について家を出た。待ち合わせの時間まで、まだ一時間ほどある。
白のセダンに乗り込み、杏から何か連絡が来ていないかチェックした。小一時間ほど前に送ったメッセージも未読のままだ。後部座席に置いてあるバッグの中で郁子の携帯が鳴った。
「葉月さん、悪いけど電話に出て、スピーカーにしてくれる?」
言われたとおりに後部座席に手を伸ばし、携帯を取り出す。ディスプレイにはMASATOという名前が表示されている。
「郁子ちゃーん。もう家出た?」
チャラそうな男の声が聞こえてくる。
「うん。そっちに向かってる。どこに行けばいい?」
「Pってビルの地下駐車場」
Pというのは、雑多な店舗が入ったファッションビルだ。
「車種は?」
「撮影に使ったシルバーのライトバン」
「それ、目立つんじゃない?」
「尾行には、郁子ちゃんの車を使えばいいよ」
「ちょっと待って。私ライトバンなんて運転できない」
「とにかく、会ってから話そう」
二十分ほどで、指定された駐車場に着いた。シルバーのライトバンを探し、郁子はその隣に車を停めた。
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