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三人が会社へ戻る途中、 突然奈緒の名前を呼ぶ声が響いた。 「麻生さん!」 奈緒が声の方を振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。 そこで奈緒はすぐに思い出した。 奈緒に声をかけた女性は、 奈緒が前の会社で営業推進本部にいた時に、一緒に働いていた女性だ。 名前は倉本結衣(くらもとゆい)、当時倉本は派遣社員として 奈緒の部署に来ていた。 倉本は奈緒の傍まで近づくと、 「お久しぶりです。倉本です。覚えていらっしゃいますか?」 と、少しはにかみながら言った。 「ええ、もちろん!」 「あ、良かった!」 倉本はホッとした様子だった。 奈緒は倉本の事を忘れるはずがなかった。 なぜなら奈緒は、倉本から仕事の事を質問されて、いつも優しく教えてあげていたからだ。 彼女は本当は、三輪みどりの元で仕事をしていたが、 みどりは倉本が質問をしても、教えてくれなかったらしい。 それで度々奈緒の元へ質問に来ていた。 おとなしく控えめな彼女が、 トイレで泣いているのを何度か目撃した奈緒は、 倉本に質問されるといつも丁寧に教えてあげていた。 おそらく倉本は、みどりに冷たくされていたのだと思う。 だから奈緒は、いつも遠くから倉本の様子を気にしていた。 辛そうな時はそっと声をかけ、 分からない事があればいつでも聞いてねと、倉本に言った。 そのお陰で、倉本は途中で辞める事なくなんとか契約期間の二年を全うし、 つい最近別の派遣先へ移ったのだった。
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