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「ハンカチ......汚してしまってスミマセン。では、私、そろそろ戻りますね!」 倉本はそう言うと、奈緒の手にハンカチを渡した。 そして軽く会釈をすると、その場から立ち去って行った。 そんな倉本へ奈緒が叫んだ。 「倉本さんっ! 話してくれてありがとう!」 その声に振り向いた倉本は、 穏やかな表情で奈緒に向かって一礼をすると、 再び前を向いて歩き始めた。 それから奈緒は、その場で声を押し殺して泣き続けた。 涙がとめどなく溢れてくる。 それはどうやっても止める事は出来なかった。 倉本の話を聞き、 徹が最後まで奈緒の事を大切に思ってくれていた事を知った。 しかし三輪みどりとの間に、奈緒が知らない事実がある事も知った。 だから徹は、あの時急に奈緒にプロポーズしたのだ。 結婚に全く興味がなかった徹が急に結婚しようと言ってきたのは、 自分の意志が揺らがないうちにと思ったのではないだろうか? もしくは、三輪みどりと付き合ううちに 長年付き合ってきた奈緒の良さを再認識し、プロポーズしてくれた可能性もある。 いずれにせよ、徹は三輪との事を全て終わりにして、 奈緒と一緒になる事を選んだのだ。 そう......最後に徹が選んだのは、奈緒だったのだ。 そうはっきり分かっても、奈緒は素直に喜べなかった。 徹の事を許せない気持ちと、許したい気持ちが交錯する。 泣きながら、色々な感情がごちゃ混ぜになる。 結論なんてどうでも良かった。 奈緒が本当に望んでいるのは、もう一度徹に会いたい... ただそれだけだった。 会ってちゃんと話したい... 会ってちゃんと謝って欲しい... しかし奈緒のそんな願いは、これから先も叶う事はなかった。 指輪を海に捨ててしまった事を、奈緒は悔やんでいた。 あの指輪は、徹が本気で奈緒と一緒になりたいと思ってくれた 唯一の証しだったからだ。 自分はなんと愚かな事をしてしまったのだろう... 大切なものを何もかも失ってしまった奈緒は、 それからまた激しく泣き続けた。
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