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奈緒は秘書室に戻る前に、化粧室に寄ってメイクを直す。
メイクは直っても、充血した目はごまかせなかった。
諦めた奈緒はフーッとため息をつくと、秘書室へ戻った。
「奈緒ちゃんお帰り~!」
「お知り合いとは久しぶりに色々話せたかな~?」
二人はにこやかに声をかける。
「遅くなってすみませんっ! はい、久しぶりにいっぱい話せました。ありがとうございました」
奈緒はそう言ってぺこりとお辞儀をした。
その時、奈緒の顔を見たさおりと恵子は、
奈緒の顔が泣きはらしたような目をしている事に気づいた。
思わず二人は顔を見合わす。
しかしさおりが軽く首を横に振ったので、
恵子もそのまま気づかないふりをした。
そしてさおりが言った。
「今、ボスの所へ来ているお客様が、美味しそうなマカロンを下さったの! 後でお茶の時にいただきましょう!」
さおりはそう言うと、キッチンへ置いてある紙袋を指差した。
「うわぁ~マカロン! 私大好き~!」
恵子が不自然なくらいに大きな声で叫んだ。
「私もマカロン好きです!」
奈緒はそう言うと、ロッカーへ財布を置きに行った。
奈緒がいなくなると、また二人は目くばせをする。
そしてさおりが声を出さずに、
「そっとしておきましょう」
と口を動かしたので、恵子もうんと頷いた。
その日の午後は、穏やかに過ぎて行った。
奈緒はあえて仕事に集中するようにしたので、
倉本と話した内容については思い出さずに済んだ。
仕事に没頭していると、何もかも忘れられる。
この時奈緒は、やはりすぐに再就職して良かったと心から思った。
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