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美沙は無言で秘書室へ入ると、 入口に置いてあるアルコール消毒液のボトルに、 液体を入れ始める。 その手際はノロノロととても遅く、 まるでわざと時間をかけてやっているように思えた。 美沙は作業をしながら、ちらりと奈緒の方を盗み見る。 しかし奈緒はパソコンに集中しているので、 その視線には全く気づいていない。 その時、またノックの音が響いた。 「はーい!」 今度は恵子が返事をした。 すると省吾が秘書室に入って来た。 省吾を見た美沙の瞳に輝きが増す。 しかし、省吾は入口付近にいる美沙には目もくれずに、 奈緒のデスクまで歩み寄ると言った。 「麻生さん、これも追加でお願い」 「承知しました」 「あとさ、これ、出先でいただいたんだ。良かったらみんなで食べて!」 省吾はそう言って、有名チョコレート店の紙袋を奈緒に渡した。 紙袋の店名を見た恵子が、ひときわ大きい声で言った。 「あっ! それ、最近オープンしたばかりの大人気の店だわ! SNSやテレビでも話題になっているのよ!」 「えっ? そうなんだ!」 すぐに省吾が反応する。 「はい、何時間も並ばないと手に入らないんですよぉ~!」 「へぇ、そんな有名なチョコなら俺も食べたいなぁ...」 すると、省吾の言葉を聞いた奈緒が言った。 「じゃあ後でコーヒーと一緒にお持ちします」 「サンキュー!」 省吾は爽やかな笑顔で返事をすると、颯爽と秘書室を出て行った。
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