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その静けさを遮るように、奈緒はあえて明るい声で言った。 「もう終わった事ですから! でもそれが誰かの耳に入って広まっちゃったのかしら? ウフフッ...」 奈緒はそう言い終えないうちに、涙がぽろぽろとこぼれ落ちてきた。 もう限界だった。 やっと新しい職場でやり直そうと頑張っていたのに、 まさかこんな事になるとは...。 すると、さおりがカツカツとヒールの音を響かせながら 傍まで歩いて来た。 そして奈緒をギュッと抱き締める。 「我慢しなくていいのよ...」 さおりは諭すように奈緒に言う。 その声に、思わず奈緒は号泣し始めた。 ずっとこらえていた感情が、一気に溢れ出してくる。 まるでダムで堰き止められていた水が、一気に流れ落ちるように...。 この時かなり我慢をしていた事に奈緒は気付いた。 本当はずっと泣きたかった。 思い切り泣きたかったのだ。 しかし感情のままに泣いてしまったら、 何かに負けてしまうような気がして、泣けなかった。 肩を震わせながら激しく泣き続ける奈緒の背中を、 さおりはトントンと軽く叩く。 その優しい手の動きは、まるで母の手のようだった。 少し離れた場所からは、 泣きじゃくる奈緒の事を、恵子が心配そうに見つめていた。 しばらく経った後、漸く奈緒は落ち着きを取り戻した。 「すみません...」 奈緒は二人に向かって言った。
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