1

11/11

9340人が本棚に入れています
本棚に追加
/342ページ
「ありがとうございました。諦めて、もう帰ります...」 奈緒は省吾にそう告げると、ペコリとお辞儀をした。 そして借りていた傘を差し出す。 「傘、ありがとうございました」 すると省吾が言った。 「家は近くですか? 雪もひどくなってきたし、良かったら車で送りましょうか?」 それを聞いて、奈緒はびっくりした顔をしながら 顔の前で右手をブンブンと振りながら言った。 「近いので大丈夫です。お気遣いありがとうございます」 そして再び傘を省吾に差し出す。 省吾はそれを制止すると、 「傘は良かったら使って下さい」 「えっ、でも...お返しする機会もないし......」 「ハハハ、傘なら家にまだいくつかありますから大丈夫ですよ」 省吾はそう言うと、腕時計をちらりと見た。 「おっと、もうこんな時間か...じゃあ私はこれで! 風邪ひかないようにね!」 と、爽やかな笑顔で言うと、駐車場の方へ走って行った。 奈緒は慌ててその後ろ姿に声をかけた。 「ありがとうございましたっ!」 その声に、省吾は右手を軽く上げて合図をする。 そして雪が降りしきる中、駐車場への階段を駆け上がって行った。
/342ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9340人が本棚に入れています
本棚に追加