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「ありがとうございました。諦めて、もう帰ります...」
奈緒は省吾にそう告げると、ペコリとお辞儀をした。
そして借りていた傘を差し出す。
「傘、ありがとうございました」
すると省吾が言った。
「家は近くですか? 雪もひどくなってきたし、良かったら車で送りましょうか?」
それを聞いて、奈緒はびっくりした顔をしながら
顔の前で右手をブンブンと振りながら言った。
「近いので大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
そして再び傘を省吾に差し出す。
省吾はそれを制止すると、
「傘は良かったら使って下さい」
「えっ、でも...お返しする機会もないし......」
「ハハハ、傘なら家にまだいくつかありますから大丈夫ですよ」
省吾はそう言うと、腕時計をちらりと見た。
「おっと、もうこんな時間か...じゃあ私はこれで! 風邪ひかないようにね!」
と、爽やかな笑顔で言うと、駐車場の方へ走って行った。
奈緒は慌ててその後ろ姿に声をかけた。
「ありがとうございましたっ!」
その声に、省吾は右手を軽く上げて合図をする。
そして雪が降りしきる中、駐車場への階段を駆け上がって行った。
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