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「奈緒ちゃんまで笑っちゃったじゃない! んもうっ!」 さおりが恥ずかしそうに言ったので、 奈緒はまた笑ってしまった。 そして二人に向かって言った。 「もう秘書室最高です! ありがとうございます。少し気持ちが楽になりました」 奈緒はそう言う、二人に向かってペコリとお辞儀をした。 「それなら良かったわ! そうだ! 今日仕事が終わったら三人で飲みに行かない? もうさ、浮気ダメンズについて議論を交わしましょうよ! 浮気男には私も鬱憤がたまってるんだから!」 「いいですねぇ! 私も昔恋人に浮気された経験があるから、ダメンズについて語り合いたいっ!」 恵子はそう言ってかなり乗り気な様子だった。 するとまたさおりが言った。 「あらっ、私なんて浮気夫を私の方から捨ててやったんだからねっ! これからは女が男を捨てる時代なの! 奈緒ちゃん、飲みながら浮気男の見分け方をレクチャーしてあげるわ! だから飲みに行きましょうよ!」 奈緒はティッシュで鼻をかむと笑顔で言った。 「はい! レクチャーよろしくです!」 「そう来なくっちゃ! そうと決まったら仕事は定時で終えるべし!」 途端に三人はそれぞれの席へ戻った。 そして、慌てて仕事を始める。 そしてさおりがもう一度奈緒に言った。 「もし社内で陰口を言われたり嫌がらせをされたら、相手の名前を私に教えて! 後で上に報告するから!」 その頼もしい口調に、思わず奈緒は顔を上げた。 この会社は、理不尽な目にあっている社員を、 徹底的に守ってくれる会社なのだ。 その事実に感動しながら、奈緒はさおりに言った。 「ありがとうございます」 するとさおりはニッコリと笑い、手元へ視線を戻した。 パソコンへ向かいながら奈緒は思った。 徹の死以降、家族以外で、初めて人の温かさに触れたような気がした。
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