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「サンキュー!」 省吾はそう言って、美味しそうにコーヒーを一口飲む。 「あの...今朝は朝礼があるんですよね?」 「うん、麻生さんもちゃんと出てね!」 「あ、はい...」 朝礼で何の話があるのか気になった奈緒は、 その内容を聞いてみたいと思っていたが、 省吾はパソコンへ向かって忙しそうに入力をしていたので、 諦めてそのまま部屋を出た。 奈緒が秘書室へ戻ると、恵子が聞いた。 「朝礼はなんの話か言ってた?」 「特に何も言っていませんでした」 「そっか。ま、行ってみたら分かるよね!」 恵子はそう言いながら、残りのコーヒーを三人のカップに入れて デスクまで持ってきてくれた。 そうこうしているうちに、時刻は9時10分を過ぎた。 三人はすぐ近くにある階段で30階まで降りる事にする。 朝礼が行われるフロアは、人で溢れていた。 手の空いている全社員が集まると、かなりの人数で圧巻だった。 前に奈緒がエレベーターで見かけた、 茶髪にピアスの20代の若者達も来ている。 普段は29階にいる技術職の人達だろう。 その中には、ちらほらと若い女子社員達の姿も見えた。 奈緒はなるべく目立たない位置へ行き、 さおりの陰に隠れるように立っていたが、 それでも何人かの女子社員が奈緒の方を指差して、 ひそひそと話している事に気付く。 「ほんと嫌になっちゃうわね! 陰口はやめてもらえる?」 さおりは、女子社員達に向かって声を荒げた。 すると、女子社員達は急に黙り込み、 罰の悪そうな顔をして、後ろの方へ移動して行った。 「ほんと、どろどろした女の世界って嫌だわ~」 恵子もうんざりした様子で言った。 恵子は前の会社でいじめにあったと言っていたので、 こういう事は経験済みなのだろう。 二人が堂々と相手を蹴散らしてくれたので、奈緒は心から感謝した。 その時、がやがやしていたフロア内が急に静まり返った。 上役たちがぞろぞろと部屋に入って来たからだ。 その中には省吾もいた。
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