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「君を守る為の手段なんだよ。勝手にこんな風にしてすまない。でも悪いようにはしないから...」
そんな事を言われても、
はいそうですかとすぐに納得する人はいないだろう。
奈緒は一度深呼吸をしてから、今起きた事を冷静に考えてみる。
確かに、奈緒が省吾の恋人という事にしておけば、
変な噂もすぐにかき消されて楽かもしれない。
今後こういった騒動に巻き込まれる事もなくなるだろう。
それに、今奈緒は仕事に全力投球したいと思っていた。
もう恋なんてしなくていいと思っている奈緒にとって、
逆に好都合かもしれない。
そんな打算的な考えが働く。
そして省吾に聞いた。
「えっと...それってつまり...私達は恋人の『ふり』をするっていう事ですか?」
「まあそうだね......俺は『ふり』じゃなくてもいいけど......」
省吾があまりにも軽い感じでさらっと言ったので、
奈緒は後半の言葉を聞き逃した。
そして、省吾に再度確認をする。
「それは社内でだけって事ですよね? あくまでも会社内でフリをすればいいんですよね?」
「社内だけだと怪しまれるから...時には外でもかなぁ...まあその辺は臨機応変に! 正直なところ、君が『仮の恋人』になってくれると、俺も色々と助かるんだ」
省吾はそう言って笑った。
「それはつまり、恋人がいる事にすれば、色々な面倒から逃げられるから?」
奈緒は分かっていた。
秘書室で電話を受ける際、時折女性からの電話を受ける。
それは省吾への個人的な電話だった。
奈緒が電話を「お繋ぎしますか?」と省吾に確認すると、
ほぼ100%の確率で居留守を使ってと言われる。
つまりそういう事なのだ。
「うん...さすが麻生さんは鋭いなぁ。まあそう言う事だね!」
省吾が苦笑いしながら言った。
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