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そして奈緒は、今日でこの会社を退職する事になっていた。 徹が交通事故で亡くなった際、 実はある事実が発覚し、奈緒は会社に居辛くなってしまった。 奈緒は悩んだ結果、思い切って環境を変える事にした。 奈緒は最終日の昼休み、 営業推進部時代に上司だった加賀(かが)部長に呼び出されていた。 奈緒は経理部を出て、加賀が待つ会議室へと向かう。 途中、廊下で女性社員達が奈緒を見て、ヒソヒソと話しを始める。 「彼女今日までだったわよね?」 「さっき加賀部長に呼ばれてたわ...」 「きっと江崎さんの事よね...」 「本当に可哀想...私だったら耐えられないわ...」 「それにしても、江崎さんがあんな人だったなんて...ショックだわ...」 「本当ね...まさか二股かける人だとは思わなかったわよ...」 「三輪さんも馬鹿よねぇ...人のものに手を出すから罰が当たって...」 「うんうん、天罰ってあるんだなって思った!」 「ほんと、悪い事は出来ないわね...」 そう...そのある事実とは、 婚約者の徹が、二股をかけていたという事実だった。 徹は同じ部の後輩、三輪みどりとも交際をしていたのだ。 その事実を知った奈緒は、もう何を信じて良いのか分からなくなっていた。 徹は死んでしまった。 今となっては、徹本人にその事を問いただす事さえ出来ないのだ。 そして遺された奈緒だけが、今、茨の道を歩かされているのだ。 もうこんな晒し者のような環境からは、早く解放されたい。 奈緒はそう思いながら、溢れてきそうな涙をぐっとこらえると、 加賀の待つ会議室へ向かった。 人気(ひとけ)のない廊下に差し掛かると、 少し落ち着きを取り戻す。 長い廊下の先にある会議室の前に着くと、 奈緒は深呼吸をしてからドアをノックし、 「失礼します」 と言って会議室へ入って行った。
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