9

15/16
前へ
/342ページ
次へ
それから奈緒は、その日の急ぎの仕事を全て片付けると、 化粧室へ向かった。 そろそろ出かける三時が近づいていたので、 少し身なりを整えようと思ったからだ。 化粧室へ入ると、全身をチェックしてから、 化粧を直した。 今日の奈緒の服装は、上品なオレンジ色の麻のセーターに、 ベージュの膝丈のフレアースカートを履いている。 首には小さなハート形のペンダントトップがついた、 18金のネックレスをつけていた。 これは前の会社にいた時に、自分で買った物だ。 奈緒は、自分にはシルバー系よりも、 ゴールド系の色味の方が似合うと思っていた。 『取引先に行くのなら、もうちょっときちんとした格好をしてくれば良かったな...』 そう思いながら、小さくため息をついて髪型を整える。 今夜は、省吾と食事に行く約束をしていたので、 着心地の良いラフな服を選んでいたのだ。 『ま、しょうがないか...』 奈緒は心の中でそう呟くと、ブラシをポーチの中へしまう。 そしてもう一度鏡に映る自分の姿を見た。 髪はこの前の休日に、美容院へ行き少し明るめに染めていたので、 オレンジ色のセーターによく映えていた。 徹の件以来、少し体重が落ちていた奈緒は、 普段よりも少しほっそりとしていた。 しかしそれが返って、元々大きかった奈緒の瞳を 更に大きく見せていた。 奈緒はもう一度全身をチェックしてから、秘書室へ戻った。
/342ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9365人が本棚に入れています
本棚に追加