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二人はエレベーターへ乗り、一階へ降りる。 ビルを出ると、省吾はビルの裏通りへと向かう。 以前省吾が奈緒を見かけたカフェがある通りだ。 奈緒はてっきり電車かタクシーで行くものだと思い込んでいたので、 駅とは反対方向へ向かう省吾を見て不思議そうな顔をする。 すると省吾が言った。 「面接の日、あのカフェにいたよね?」 奈緒は思わず驚く。 「えっ? なんでご存知なのですか?」 「ハハッ、あの時俺もあのカフェにいたんだよ」 「ああ...」 奈緒はなるほどといった顔をする。 もしその時省吾に気付いていたら 海で会った人だとすぐ分かっただろうか? 奈緒はふとそんな事を思う。 そして今奈緒は、省吾の会社で働いている。 そこに不思議な縁を感じる。 二人が海で偶然出逢ったあの日の事が、 今では遠い昔のように感じられるから不思議だ。 「今日は電車じゃないんですか?」 「うん、車で行くよ。物流センターは神奈川の駅から遠い場所にあるから、車の方が便利なんだ」 省吾はそう言った。 省吾にはお抱え運転手はいないので、 普段はタクシーを利用しているようだが、 少し遠くへ行く場合には、自分の車で移動するようだ。 カフェの前を通り過ぎ10メートルほど歩くと、 左手にコインパーキングがあった。 省吾はそこへ入って行った。
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