9342人が本棚に入れています
本棚に追加
/342ページ
仕事に対しては厳しい人だったが、
普段は優しくユーモアに溢れ、社員からの信頼も厚い。
加賀は、若手社員達からは父親のように慕われていた。
加賀は奈緒に父親がいない事を知ると、
更に優しく娘のように可愛がってくれた。
加賀は直属の部下である徹の事も、何かと目に掛けていた。
それだけに、加賀のショックも相当なものだっただろう。
奈緒のせいではなかったが、結果的にこんな事になってしまい、
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
本当だったら結婚式の仲人は、加賀に頼む予定でいた。
そこで奈緒は、今までの感謝の気持ちを込めて加賀に言った。
「加賀部長、どうかあまりご自分を責めないで下さい...。これからもお身体に気を付けて、営業推進本部のみんなと頑張って下さいね! 本当に今日までお世話になり、ありがとうございました」
奈緒は席を立って深々と一礼をすると、ドアへ向かって歩き始めた。
そこへ加賀が声をかけた。
「麻生くん! よそへ行っても、何か困った事があればいつでも相談するんだぞ!」
その言葉に、思わず涙が溢れてきた。
奈緒は涙を零さないように一度上を向いて深呼吸をすると、
最後にもう一度深く一礼をしてから、会議室を後にした。
そしてこの日奈緒は、新卒以来ずっと勤め続けた会社を退職した。
最初のコメントを投稿しよう!