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漸く前を向いた奈緒に省吾が言った。 「遅くまで悪かったね」 「いえ、楽しかったです。とても素敵なご家族でしたね!」 奈緒はそう言って穏やかに微笑んだ。 最近、こんな和やかな環境に身を置く事のなかった奈緒にとって、 今夜松倉家で過ごした時間は、とても楽しいものだった。 あたたかい人達と触れ合えて、とても充実した時間を過ごす事が出来た。 最初は少し緊張していた奈緒も、 あっという間に三人と打ち解けた。 先ほどの楽しい会話を思い出して、 思わず奈緒の顔が綻ぶ。 その時奈緒は、無意識に左手の薬指の指輪に触れた。 そこに感じる指輪の重みに、なぜか心が安らぐ。 そこで奈緒は急に思いだしたように言った。 「あの...指輪、ありがとうございました。こんなに高価なものを...」 「うん! でも気に入ったのが見つかって良かったな! 明日からちゃんと着けて来いよ! 会社にいる時だけじゃなく、一日中ずっとはめていろよ!」 「えっ?」 思わず奈緒が声を出す。 今のはどういう意味だろうか? 『一日中はめる? これは小道具なのに?』 奈緒は不思議に思い、省吾に問いただそうとしたが、 それを遮るように省吾が言った。 「俺と喧嘩しても、海には捨てるなよ!」 省吾は奈緒の方を見てニヤリと笑う。 すると奈緒は、 「そんな事はしませんっ!」 と、ムキになって言い返す。 そんな奈緒を見て、省吾が笑う。
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