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「それにね、母さん思うんだけど、婚約指輪を返す必要なんてないと思うわ...結納金っていうならまだしも...まだきちんと結納だってしていなかったんだし...」 「うん...でも千秋(ちあき)が、あのご両親の事だから、もしかしたら返せって言うかもしれないよって脅すんだもの...」 千秋というのは、奈緒が千葉の実家にいた時からの友達、 藤井千秋(ふじいちあき)のことだった。 千秋は奈緒の中学時代からの親友だった。 千秋も今は東京に住んでいる。 「千秋ちゃんは昔から心配性だったからねぇ...。でもね、もし返せなんて言ってきたら、その時は母さんが対処するからあなたは心配しなくていいわ! それよりも、奈緒はこれから先の事だけを考えなさい!」 「お母さん......ありがとう...」 母の言葉を聞いた奈緒は、思わず目頭が熱くなる。 「で、昨日のメッセージに書いてあったのは本当なの? 部長さんが転職先を紹介してくれたって?」 「うん、そう。IT系企業の経理の仕事よ。良さそうな会社だから、来週面接に行ってみるわ」 「それは良かったわ! 奈緒は本当にいい上司に恵まれたわね!」 聡美はそう言って笑った。 「もし転職先がそこに決まったら、ここから引っ越そうと思ってる。少し遠いから...」 「環境を変えるのはいい事だわ! すぐに忘れるのは無理かもしれないけれど、徐々に時間が解決してくれるわ! 大丈夫! あなたには母さんがついてるんだから......」 その言葉を聞いて、思わず涙が溢れてくる。 しかし、泣いている事に気づかれないように、 奈緒はあえて明るい声で言った。 「うん、お母さんありがとう」 「じゃあ、母さんもうパートに行く時間だから....仕事が決まったら連絡してね!」 「分かった!」 奈緒はそう答えると、聡美との電話を切った。
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