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女性は、営業推進本部の後輩社員だった。
名前は三輪みどり、30歳。
奈緒が営業推進本部にいた時の、一期後輩だった。
華のある美人で、男性社員達からはかなり人気があった。
徹はその日、静岡へ出張だった。
静岡へ出張に行く際、温泉好きの徹はいつも小さな温泉宿へ泊まる。
そこへ向かう車の助手席に、三輪を乗せていたのだ。
奈緒は頭がパニックになり、何も考えられなくなっていた。
もちろん、それは徹の両親も同じだった。
近々婚約者として紹介するはずだった女性は目の前にいるのに、
息子が亡くなった際隣に同乗していたのは、違う女性だった。
息子の不祥事を知った徹の両親は、かなり狼狽していた。
そして、すぐに保身に回り始める。
正式な挨拶も結納もしていないので、
奈緒はまだ正式な婚約者ではないと主張する。
婚約はまだ成立していないと...。
だから、徹が他の女性と一緒にいてもなんら問題はないと。
とにかく徹の両親は、自分達の身を守る事に必死だった。
無理もないだろう。
同乗していた三輪みどりも死亡してしまったのだ。
徹の両親は、三輪みどりの家族への対応でいっぱいいっぱいで、
奈緒へ向ける心の余裕などなかったのかもしれない。
徹の両親が一番恐れていたのは、
徹に婚約者がいる事を、みどりの親に知られる事だった。
婚約者がいる身でありながら、娘をたぶらかした。
そう思われるのを、一番恐れていたようだ。
だから奈緒の存在はなかった事にしたかったのだ。
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