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『ちくしょー! 時間がないから一階のカフェに行こうと思ってたのに行けねーじゃねーか...』
省吾は思わず毒を吐くと、仕方なくビルの裏通りへ向かう。
実はそこにも省吾の行きつけのカフェがあった。
大通りから一本入った奥まった位置にあるそのカフェは、
人通りの少ない場所なので、比較的いつも空いている。
カウンター席も多いので、一人で訪れる客も多い。
静かな環境に身を置きたい時には、うってつけのカフェだった。
店に入ると、予想通り空いていた。
省吾はコーヒーとサンドイッチを頼むと、
会計を済ませてから奥のテーブル席へ向かった。
椅子に座りホッと息をついた後、空いた店内を見回す。
省吾の会社の社員はいないようだ。
その時、省吾は声を出した。
「あっ?」
なぜなら窓際の席に、見覚えのある顔を見つけたからだ。
省吾の視線の先には、
あの大雪の日、鎌倉の海で出逢った女性が座っていた。
女性は今日はきちんとしたスーツを着ている。
あの時とはだいぶ印象が違っていたので、
よく似た別人かもしれないとも思ったが、
間違いない、彼女だ。
省吾は昔から人の顔を覚えるのが得意なので、
勘違いではなさそうだ。
女性は手に持った何かの用紙をじっと見ている。
その後、それを丁寧に折りたたんで封筒へしまうと、
今度はスマホ見始める。
省吾が立ち上がって女性の方へ歩こうとした瞬間、
スマホが無音でブルブルと震えた。
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