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二人のやり取りを、近くにいた総務部や経理部の社員達が うんざりした様子で聞いていた。 こういった美沙の我儘は、これまでに何度も聞かされていたからだ。 実は美沙は、CyberSpace.inc の大株主である、 花菱電機(はなびしでんき)の会長の孫だった。 会長からのたっての願いで、二年前に美沙をこの会社に受け入れた。 取引先や株主からのコネ利用の採用に対し、省吾は激しく反対したが、 最高財務責任者である君島健斗からの頼みで、 仕方なく今回だけ美沙を社員として迎え入れた。 美沙がコネ入社である事に、社員達は薄々気づいていた。 まず第一に、まともに仕事が出来ない。 おそらく今まで社会人を経験した事がないだろうという事は、 誰の目に見ても明らかだった。 美沙が出社してする事と言えば、 頻繁にトイレへ行き化粧直しをする事、 そして、用もないのに社内をうろつく事だった。 肝心の自分の仕事は、全て派遣に押し付ける。 花菱電機の会長と美沙の名字が一緒なので、 美沙が会長の親族であると言う事は、誰にでも想像がつく。 そして美沙がこの会社へ入った目的は、 CEOである省吾を射止めたいからだという事も、 ほとんどの社員は知っていた。
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