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一見すると、悩みなどなさそうな二人が、 それぞれ過去に色々と抱えていたのだ。 苦難を乗り越えたからこそ、人に優しく出来るのだろうか? 奈緒はふとそんな事を思った。 『私だけじゃない...みんな色々乗り越えているんだ...』 そう思うと、自分もくよくよせずに前を見て歩かなくては! と思えるような気がした。 二人の素敵な先輩に出会い、 奈緒はなんだか勇気づけられたような気がしていた。 仕事以外の事でも話は盛り上がる。 現在恵子には付き合って一年目の恋人がいるらしい。 さおりはもう男はこりごりだと言って笑う。 奈緒は恋人がいるかと聞かれたが、いないと答えた。 それは嘘ではない。 しかし徹については、まだ話せないと思っている自分がいた。 いつか二人に、この胸の内を話せる日が来るのだろうか? 午後からの仕事では、 ちょうど川田公平に来客があったので、 奈緒がお茶の準備をして部屋へ運んだ。 「なんの問題もないわね! 合格合格!」 さおりは満足気に言う。 お茶出しは以前の会社でも通常業務だったので、 自信はあった。 でも、いざさおりから合格をもらうと、嬉しくなる。 不安な気持ちを抱えて初出社した奈緒は、 優しい先輩二人に囲まれて、気持ちの良いスタートが切れた。 『こんなに働きやすい職場でいいのだろうか?』 その日の仕事を定時で終え、 駅までの道を歩きながら、奈緒はふとそんな事を思う。 奈緒は新しい職場、新しい仕事を好きになれそうな気がした。 「よしっ、頑張るぞ!」 奈緒はそう呟くと、 軽やかな足取りで駅構内へ入って行った。
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