銀杏の葉

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 病室から窓を見ると、大きな銀杏の木が生えているのが見える。つい先週まで沢山の葉をつけていて、視界が鮮やかな黄色に染まっていた。  強い木枯らしが吹いた日からあっという間に葉が落ちていき、今では数えられる程しか残っていない。現時点で、残りの葉はあと二十七枚。残された葉が風に吹かれて寒そうに震えている。 「あの葉が全て落ちた時、わたしの命も終わるんです」  わたしが言うと、彼は困ったような笑みを浮かべた。わたしの会社の総務部長の佐々木さん。誠実を絵に描いたような人で、わたしの就職面接の面接官でもあった。 「馬鹿なことを。冗談でもそういうことを言うもんじゃない」 「冗談なんかじゃありませんよ。自分のことは自分がよくわかっているんですから」  人が生きていく為には、体より心の方が健やかでなければならない。わたしはもう、この世界に希望を持てなくなっているのだ。
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