第3章 錯誤(さくご)と錯覚

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屋上に連れてこられた真己は、やはり昨日のことは現実なのだと思った。 そう―― 自分に、後姿を向けて景色を見ながら立っている、このセーラー服を着た目の前の人物は 「男性」なのだ。 夕暮れの空の下、漆黒(しっこく)(つや)のある長い黒髪が、風になびいているのを見ながら、真己はこんな時でも、綺麗だなと思って見ていた。 「誰にも話してないみたいだな」 「はい」 自分でも何故か分からないが、真己は敬語で返事をした。 誰しも人には言えない事、見られたくない姿があるものだ。 事故とはいえ、真己はそれを見てしまったことに、罪悪感を覚えていた。 そして、日和はこちらを振り返り、腕組をして続けた。 その顔は笑っていたが、性格の悪さが(にじ)み出ていた。 「利口(りこう)だな。流石首席(しゅせき)とでも言ってやろうか。命が惜しかったらそのまま忘れてろ。このブス」 「いや……それはちょっと……無理です。インパクト強すぎて」 「ああ?」 「いえ、何でもありません」 (というか何で私、敬語になってるんだろう……しかもブスって。もっと、堂々としていいんじゃ) そう思った真己は、意を決して日和に問う。 「な、何で女の子の格好なんかしてるの?」 「聞いてどうする?」 「別に……ただ、友達だから気になって。今だに男の子だなんて信じられないけど」 興味本位(きょうみほんい)、好奇心――がないと言えば嘘になる。 ただ、それ以上に、今は戸惑(とまど)いの方が大きかった。 それは、日和が男性だったということより、ここまで態度や性格が豹変(ひょうへん)することに対してだ。 真己は、まるで別人と話している気分だった。 「ふん、友達か……」 日和は嘲笑(ちょうしょう)するかのように、そう言うと、 「お前は、俺から単に利用されてるだけって気付いてないのか?」 「え……?!」 真己の顔が、一瞬不安そうになり、日和はその顔を見るのが何故か嫌で、視線を逸らして後姿を向けて続けた。 「……めでてぇ頭だな。こっちは優等生と仲良くしてりゃ、学校生活楽できると思っただけだ」 「それじゃあ……友達って言ったのは?」 「本心じゃない」 真己はショックで泣きそうになって、その場を逃げ出した。 匤輔(きょうすけ)に続き、日和までもが、自分のエゴを真己に押し付けようとしていたからだ。 日和が男性だったこと以上に、友達という関係性を否定されたことが、何よりショックだった。 もちろん、真己は、これが日和の本心でないことを知らない――
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