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屋上に連れてこられた真己は、やはり昨日のことは現実なのだと思った。
そう――
自分に、後姿を向けて景色を見ながら立っている、このセーラー服を着た目の前の人物は
「男性」なのだ。
夕暮れの空の下、漆黒の艶のある長い黒髪が、風になびいているのを見ながら、真己はこんな時でも、綺麗だなと思って見ていた。
「誰にも話してないみたいだな」
「はい」
自分でも何故か分からないが、真己は敬語で返事をした。
誰しも人には言えない事、見られたくない姿があるものだ。
事故とはいえ、真己はそれを見てしまったことに、罪悪感を覚えていた。
そして、日和はこちらを振り返り、腕組をして続けた。
その顔は笑っていたが、性格の悪さが滲み出ていた。
「利口だな。流石首席とでも言ってやろうか。命が惜しかったらそのまま忘れてろ。このブス」
「いや……それはちょっと……無理です。インパクト強すぎて」
「ああ?」
「いえ、何でもありません」
(というか何で私、敬語になってるんだろう……しかもブスって。もっと、堂々としていいんじゃ)
そう思った真己は、意を決して日和に問う。
「な、何で女の子の格好なんかしてるの?」
「聞いてどうする?」
「別に……ただ、友達だから気になって。今だに男の子だなんて信じられないけど」
興味本位、好奇心――がないと言えば嘘になる。
ただ、それ以上に、今は戸惑いの方が大きかった。
それは、日和が男性だったということより、ここまで態度や性格が豹変することに対してだ。
真己は、まるで別人と話している気分だった。
「ふん、友達か……」
日和は嘲笑するかのように、そう言うと、
「お前は、俺から単に利用されてるだけって気付いてないのか?」
「え……?!」
真己の顔が、一瞬不安そうになり、日和はその顔を見るのが何故か嫌で、視線を逸らして後姿を向けて続けた。
「……めでてぇ頭だな。こっちは優等生と仲良くしてりゃ、学校生活楽できると思っただけだ」
「それじゃあ……友達って言ったのは?」
「本心じゃない」
真己はショックで泣きそうになって、その場を逃げ出した。
匤輔に続き、日和までもが、自分のエゴを真己に押し付けようとしていたからだ。
日和が男性だったこと以上に、友達という関係性を否定されたことが、何よりショックだった。
もちろん、真己は、これが日和の本心でないことを知らない――
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