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「サヨのことを憎んでいるやつなんてひとりもいない。だからもう一度、この村で一緒に暮らそう」
それまで黙って聞いていたマゴシチが諫めた。
「待てゼンキチ、無礼だぞ。先に申し上げることがあるだろう」
マゴシチの一声で、遠くで眺めていた村人たちもぞろぞろと集ってくる。あっという間にわたしの前にずらりと並び、一同に跪いたところでようやく我に返って慌てて止めた。それでも譲らないマゴシチの謝罪を手短に受け入れると、彼は「そのうえで」と続けた。
「かねてから、この村が周辺の地域と比べて妖の被害が少ないことは知られていました。以前までは地形的な要因があるものと考えられていましたが……。人知れず村を守り続けてくださった貴方を、廃寺なんぞに住ませておくわけにはいかない。せめて、衣食住だけでも提供させていただきたい」
村人たちの視線を一身に受ける。その中のひとり、ゼンキチと目が合って、彼はにこりと微笑んだ。
震えてしまう声でなんとか返事をすると、父の笑い声のような歓声が上がった。
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