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 ふもと近くまで降りてきても、うっすら雪が積もっている。早足で進んでいると、なにやら前方から緊迫した声と落ち葉の上を走る音が聞こえてきた。道が曲がりくねっていて姿は見えないが、こちらへ向かってきているようだ。  慌てて脇に隠れようとしたが、その会話の内容に引っ掛かり、足を止めた。 「あちらです! あちらで怪我した子供が苦しんでいます! 早く!」  道の向こうから男と女が飛び出してきた。前を走っていた男がわたしに気づいて「あの子か?」と背後に尋ねる。しかし女はすでに足を止めていて、彼の言葉は耳に入っていないようだった。  わたしは女の目を見た。女はたちまち震えだす。さらにわたしが一歩近づくと、女は悲鳴を上げたのと同時に姿を狐に変えて一目散に逃げ出した。 「化け狐だったのか……」  しばしの間、呆然としていた壮年の男はそうつぶやいたあと、わたしの方へ顔を向けた。 「それでは其方(そなた)は……?」  わたしが背中を向け、来た道を戻ろうとすると、男は叫んだ。 「お待ちください!」  男は駆け寄ってきて、片膝をついた。 「よもや、サヨ様であられますか?」  男はわたしの表情の変化を見逃さなかった。立てていた方の膝と頭まで地面につけ、先ほどよりも大きな声を出した。 「サヨ様! 村の者は皆、あなたをずっと探しておりました!」
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