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久しぶりに訪れた村は、当時とあまり変わっていなかった。茅葺屋根の家が30軒ほど。あちらこちらで薪を焼く煙が立ち上り、湿った土や植物のにおいも混じって、記憶の中の風景に鮮やかな色を差す。
山道で出会った男はマゴシチと名乗った。彼は村につくと、近くにいた娘に何やら言づけをし、わたしには、自分と一緒にしばしここで待っているよう伝えた。
少しして、奥のほうから5人の人間がやってきた。老婆と若い男、そしてその後ろに彼と同じくらいの年頃の男たちが3人。厳かな雰囲気に、家々からは多くの人が顔をのぞかせる。
前を歩いていた男は途中から走り出すと、こちらに向かって大きな声で呼びかけた。
「サヨ!」
声は低くなったものの、人懐っこい笑顔は昔のままだった。
「ゼンキチ……」
「ずっと会いたかった!」
その体つきは当時とはまるで違い、見上げなければ目を合わせることができないくらいだ。
「立派になりましたね」
ゼンキチははにかんだあと、マゴシチに言った。
「間違いない、サヨ様だ。そうだよな? キク婆」
キク婆と呼ばれた老婆もようやくわたしたちのところまできて、わたしをまじまじと見ると、突如体を震わせた。
「ああ、サヨ様……もう一度お目にかかれるとは……」
そのまま泣き崩れてしまったキクに代わって、ゼンキチが説明してくれた。
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