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「サヨのことは村の伝承に残ってたんだ。愚かな行いの戒めとして。サヨがいなくなったあと、サヨを慕っていた若者たちを中心に暴動が起きたらしい。最終的にサヨにあたっていた連中も非を認めて、謝るために各地を回ったみたいなんだけど、見つけられなくて……」
その間も、キクのすすり泣く声は止まらなかった。それを聞いているうちにふと、膝をすりむいて泣く少女の顔がよみがえった。
「キク……牛飼いの娘ですか?」
キクは顔を上げると、何度も大きくうなずいた。
「そうでございます! サヨ様には、何度も怪我を診ていただきました。それなのに、あのときわたしは陰で見ていることしかできず……」
「仕方がありませんよ。まだ小さかったのですから。それよりも、よくぞ元気で」
わたしがそう言うと、キクはまた声を上げて泣き始めた。
「おいらが村に戻ったあと、年寄りたちにサヨのことを話したら、みんな目の色を変えて教えてくれたんだ。サヨは村を憎んで、はるか遠くに行ってしまったと考えられていたから、まさかあの山でずっと村を守ってくれていたなんて、誰も思いもしなかった。今度こそ何としてでも見つけなきゃって、みんな躍起になってたんだけど、結局10年もかかっちまった……おいらも、あの日どうやって沢の近くまで行ったのか思い出せなくて」
「リキチにヨサク、タエやリンも、サヨ様に会いたがっておりました」
キクの口から出た懐かしい名前に、子供たちの顔が次々と浮かんでくる。彼らはこの10年の間に天寿を全うしたらしい。
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