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朝のうちに出かけ、手ごろな木の枝を何本か寺に持ち帰った。講堂の壁に寄りかかってぼんやりしていたゼンキチが「おかえり」と迎えてくれた。
「杖になりそうな枝をとってきましたよ」
わたしが鬼であることを伝えたとき、彼は驚きこそすれ怯えはしなかった。それどころか、わたしの額を指さして「角? そのちっせえのが?」とのたまった。たしかに、わたしの角は前髪を下せば隠れてしまうほど小さい。人の腕ほどあった父のものとは似ても似つかないが、それでも角であることに違いはない。少しむきになって、牙だってある、と口を開けて見せると、今度は「八重歯みたい」と笑われた。
あれから5日が経っていた。ゼンキチは最初の3日間は発熱にうなされていたが、一昨日には快復し、心境も落ち着いたのか、今では「鬼に助けられたことを誰かに伝えたい」などとはしゃいでいる。
「ありがとう!」
ゼンキチは目の前に枝の山を置かれると、意気揚々と吟味を始めた。
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