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「すごいや! 村のお医者さまでも、こんなにきれいには治せねぇ」
副え木が外れたゼンキチは、講堂をぱたぱたと歩き回りながら言った。彼を沢で見つけてから、3か月が経っていた。
「そんなことはないでしょう」
「いいや、一昨年屋根から落っこちて骨折った奴なんか、まだびっこ引いてるもん」
そう言って今度は飛び跳ねて見せる。
「調子に乗って、転んだりしないでくださいよ」
「おう!」
返事だけでなく、その足取りはしっかりとしていて、これなら山道も問題なさそうだ。
「これでようやく家へ帰れますね」
副え木を縛っていた布を折りたたみながらそう言うと、足音が止んだ。
「暗くなると危ないので、昼餉のあとには出発しましょうか」
もう一度元気な返事が返ってくるかと思いきや、聞こえてきたのは何とも控えめな声だった。
「あのさ……もうひと晩だけ、ここにいてもいい?」
わたしは手を止めて顔を上げる。そこには、両手をせわしなく動かしながら、不安そうにうつむくゼンキチの姿があった。
「それは別に、かまいませんよ」
そう答えると、ゼンキチは安心したように明るさを取り戻した。
昼前になって、一緒に食材を採りに出かけた。山菜や木の実を探し、沢で魚を捕り、寺のそばで芋を収穫した。ゼンキチが急に走り出したり、沢に飛び込んだりするたびにわたしは肝を冷やしたが、楽しそうな顔を見ると叱る気になれず、つられて頬が緩んでしまった。
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