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「初めて先生を見た時から、オレは先生が好きで、苦しくて・・・」
抑えられない感情に、息が苦しい。
「だけど先生を困らせたくないです。だから何も言わなくていいです。オレはただ、思いを知って欲しかっただけたから。ただ好きだと、知ってもらいたかっただけから・・・」
ぽろぽろ流れる涙。でもオレはそのまま先生を見つめる。
「先生と生徒の関係を超えることはしません。この先も言葉で先生に好きだとは言いません。でも思いは変わらず、オレはずっと先生を思っています。だから先生、オレを拒まないでください。卒業するまで・・・ううん、一年でいいです。オレが先生に会いに行くことを許してください」
一度口からこぼれた言葉は止まらず、そこまで言ってようやく止めることができた。
ああオレ、ずっと先生が好きだったんだ。
先生に裏切られたと思って、忘れようとして、だけど先生の真実を知って、でもその時にはもう先生はいなくて、彼に支えられながら彼と共に人生を全うしたというのに、オレの心はずっと先生が好きだったんだ。そしてそれをいま、伝えることが出来た。
それがどんなに嬉しいことか・・・。
先生に会えた喜びと、何十年分の思いを伝えられた嬉しさで、オレの涙は止まらない。そんなオレの頬に、先生は再びタオルを当ててくれる。
「この涙は僕のせいですか?」
その言葉にオレは頷く。
「一目惚れです。初めて先生を見たときから心がいっぱいになって、会えたことが嬉しくて・・・」
そしてまたこぼれた涙を、先生は優しくタオルで拭ってくれる。
「正直戸惑っています。名前を呼ばれて壇上に出た時、大勢の生徒の中で君に目が止まりました。君が顔を歪めているのが気になったんです。でも突然君は泣き出して倒れるものだから、僕は状況も考えずに壇上から飛び降りてしまいました」
そして小さく笑った。
「新しく来た名前もまだ紹介されていない教師が突然壇上から飛び降りて、体育館は騒然となりました。当然ですよね。でも僕はそんなこよりも倒れる君が心配でした」
まだ止まらない涙に、先生は僕の目をタオルで覆う。
「間に合ってよかった。でなかったら、このキレイなおでこが赤くなるところでした」
そう言ってタオルを外すと、先生が微笑む。
「猛烈なアタックは困りますが節度を守ってくれるなら、僕は大歓迎です。君の気の済むまで会いに来てください。でも僕は君の思いには応えられません。それでもいいなら、待ってます」
その言葉に、オレの目からはまた涙が溢れる。
本当に先生だ。
落ち着いた声と、柔らかい笑顔。そしていつも先生は、頭から否定しないでちゃんと相手のことを考えてくれる。それは決してオレに対してだけじゃなく、生徒みんなにそうなんだけど、それでも先生のその優しさが嬉しい。
全然変わってない。
前と同じ先生に、オレは心から安堵した。
「さあ、そろそろその涙を止めてもらわないと本当に困ってしまいます。僕が困ることはしないのでしょう?」
さっき言ったオレの言葉尻を取り、先生がお茶目にそう言うから、オレは慌てて目を擦った。
「ほらほら、そんなに擦ったら赤くなってしまいますよ」
そう言ったところで佐原先生が戻ってきた。
「ごめん、加賀美先生。川嶋くんがオメガなの忘れてたわ」
この学校はアルファとオメガが密室で二人きりになることを禁じている。それがたとえ先生と生徒であってもだ。だからうっかりオメガのオレとアルファの先生の二人きりにしてしまったことに気づいて急いで帰って来たであろう佐原先生は、オレを見てぎょっとする。
「やだ、まさか。もう間違いが・・・」
どうやらオレが泣いてるのを誤解したらしい。
「ち、違います。アレルギーが・・・オレ、ハウスダスト持ってて・・・」
咄嗟に出た言葉だけど、これはあながち嘘では無い。埃っぽいところに行くとくしゃみと鼻水が止まらなくなるのだ。ここは分からないけど・・・。
「そうなの?びっくりした。私、やらかしちゃったのかと思ったわよ。そうか、アレルギーね。ごめんね、ここまだ休み明けで掃除してないのよ」
どうやらオレの言葉を信じてくれたらしい佐原先生は、そう言って窓を開けてくれた。
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