たまにはこんなファンタジーも

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「それでどう?帰れそう?まだ辛かったらお家の人に連絡して来てもらうけど?」 「大丈夫です。帰れます」 こんなことで、仕事中の母に迎えに来てもらうのは申し訳ない。それに本当に具合は良くなっていたから。 オレはベッドから降りると、加賀美先生と佐原先生にお礼を言って保健室を出た。その時ふと、実はこれが最後かもしれないという思いが頭をよぎるけど、それはそれでもいいと思った。だって先生に会えて、話せて、そして思いを告げられたのだ。しかもその思いを受け止めてくれて、オレを拒絶しないでくれた。 それだけでオレは満足だ。 今この瞬間に成仏したとしても、もう悔いは無い。 そう思ったけれど流れる時間は止まらず、飛びもせず、オレは普通に次の日の朝を迎えた。 いつもと同じ、いつもの朝。 オレは真っ先に化学準備室へと向かった。 加賀美先生は化学の先生で、いつもいるのは職員室ではなく準備室だからだ。 どきどきしながら向かった化学準備室。そのドアをノックしてそっと開けると、そこには加賀美先生の姿が・・・。 ちゃんいた。 それだけでまた涙が込み上げてくる。けれどそれが流れる前に、オレは別の先生に声をかけられた。 「川嶋。こんな朝からどうした?もう具合は大丈夫なのか?」 声をかけてきたのは今年のクラス担任で教科担任の安田先生だ。 「おはようございます。もうすっかり大丈夫です。それで加賀美先生にお礼をしたくて来たのですが、入ってもいいですか?」 そう言うと安田先生は優しくオレを準備室に入れてくれた。 「ありがとうございます」 そう安田先生にお礼をして、オレは加賀美先生の所へ向かう。 前と同じ席だ。 「加賀美先生、おはようございます。オレは2年13組の川嶋光稀です。昨日は保健室まで運んでくださってありがとうございました」 そう言ってオレは、小さな紙袋を先生の机に置いた。 「お礼と言ってはなんですけど、うちの母お菓子作りが趣味で時々作ってくれるんです。それでちょうど昨日も作ってたから、その中から少し貰ってきました。もし甘いものが苦手だったら、誰かにあげてください。マドレーヌなんです」 実は前の時、先生が甘いものを好きなのを知っていたんだ。だからこれは先生のためにオレが昨日作ってきたものだ。 「それからこれはオレからのお願いなんですけど、昨日倒れたって言ったら普段あんまり食べないからだって言って、今日お弁当を2個持たされちゃったんです。でもオレそんなに食べられないから、もし良かったら先生に食べてもらえないかな?って」 これも嘘。 本当はオレが今朝作ってきたものだ。 先生はいつもお昼を購買で買ってるのを知っているから、せめてお昼だけでも栄養バランスの取れたものを食べて欲しくて作ってきたのだ。 オレはマドレーヌの紙袋の隣に、お弁当が入ったバッグを置いた。 「お昼をまだ用意してなかったら食べて欲しいんですけど、ダメですか?ダメなら他の先生に・・・」 と言って安田先生を見る。でも安田先生は毎日愛妻弁当を持ってきているのを知っているので、もちろん断られた。 「もらってあげればいいじゃないですか。それとも先生も弁当持ちですか?」 安田先生にそう言われては仕方がないと、加賀美先生は渋々受け取ってくれた。 「ありがとうございます。助かりました。ではお弁当箱は放課後に取りに来ますから、机の上に置いておいてください。あ、これしばらく続きますから、明日からもお昼用意しないでくださいね」 まさかこれから毎日続くと知って、加賀美先生が何かを言おうとしたけれど、オレはその前に準備室をあとにした。 先生の未来を変えようと決めてから、オレはそれをどうやってしようか考えていた。 どうしたら先生は死なないようにできるのか。 これが回帰なら、オレは先生に会うのは高2の春。それから先生が死ぬまではおよそ二年四ヶ月。原因が病気だから、それ自体を防ぐことはできないと思うけど、もしそれを早く発見出来たら治せるかもしれない。
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