たまにはこんなファンタジーも

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先生が倒れた時には『手遅れだった』と彼は言った。だったらそれよりも早かったら間に合った・・・つまり、治療出来たということだ。 病気がいつ発症したのかは分からない。 もしかしたら既に先生の身体を蝕んでるかもしれない。 そう思って、本来出会うはずの時よりも前に先生と会おうかと思ったこともある。だけど、確実に先生の居場所を知っている訳では無い現状で、変に探すことによって未来が変わり出会えなくなるかもしれない。だったら何もせず、確実に出会う日を待った方がいいのではないかと思ったんだ。だからオレはその日のために、できる限り前と同じように過ごしてきた。 そしてようやく、出会うことが出来た。 だからここからだ。 ここから先生の未来を変える。 先生と出会う前までは、未来が変わってしまうことを恐れて前と同じことをしてきたけれど、出会えたのだから多少違うことをしてもいいはず・・・というか、今回は未来を変えたいのだから、同じことをしていてはダメで、なんとか先生の病気を早期に見つけなくてはならない。 そうするにはどうすればいいか。 年に一度の健康診断は当然受けていたと思うけど、それでは病気は分からなかった。とすれば、先生に自主的に検査をしてもらわなければならない。だけどそれは、どうすればいい? 問題なのは、オレが先生の死因を知らないことだ。病気なのは分かっているけど、それがなんの病気かまでは聞いていなかった。だから先生にどんな検査を受けてもらえばいいのか分からない。 それにそもそも検査なんて、どうやって受けてもらえばいい? 生徒が急に『検査してください』なんて言っても、当然真に受けてはもらえず、からかわれたと思うかもしれない。じゃあ本気で言ってると思って貰うには、それなりに親しくなってないといけない。けれどなるべく早くに病気を見つけるには、のんびり親交を深めている時間もない。 それでオレは考えた。 検査自体は人間ドックがいいと思うんだ。それだったら大抵の病気は見つかるはず。ではそれを、どうやって先生に受けてもらうのか。 前の時は先生に会いに行くのに、誰にも知られないようにした。オレの思いは友達にも隠し、先生に会うのも偶然を装って一人で歩いている時とかにしていた。だってオメガとアルファは密室に二人きりでいてはいけなくて、準備室には行けなかったからだ。もちろん他の先生がいれば別だけど、純真無垢な当時のオレは他の先生に知られることが恥ずかしかったんだ。 だけど今は違う。 既に人生を一度終えたのだ。恥ずかしがり屋のうぶな高校生では無い。それなりに歳を重ね、ある程度の精神力は付いている。まあ、おじさんおばさん並みの図太さが備わっているのだ。多少のことでは動じない。だからオレは、今世はガンガン行くことにした。 とりあえず早く親しくならなくてはいけない。影からこっそり見ていて、一人になった隙に声をかけるなんてやってたら時間なんてあっという間にすぎてしまう。だからオレは積極的に行動することにした。 会った初日の告白も、少し想定外ではあったけどなるべく早く告白する予定だったのでむしろ良かった。あとはもう、毎日準備室に通って行動でアピールするしかない。 安田先生を巻き込むのも想定内だ。むしろ加賀美先生に恋していることを知ってもらった方が、安田先生はきっと応援してくれる。 そうしてオレは毎朝先生にお弁当とお菓子を持っていくことにした。 本当は顔を出すだけで良かったんだ。だけどそこにお弁当を渡すことにしたのは、少しでも病気と闘う時に身体のコンディションを良くしておきたかったから。もしかしたらお弁当ひとつであんまり変わらないかもしれない。だけど少しでもなにかしていたかった。これから訪れる避けては通れない病との闘い。それをただ何もしないで待つことなんて出来なかったんだ。少しでも勝てるように、オレは先生のためになにかしたかった。
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