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「いまは?いまはどこも変わったところはありませんか?胃が痛いとか、咳が出るとか、息が苦しいとか・・・」
必死のオレに、先生は肩を押さえる手に力を入れる。
「川嶋くん、落ち着いて。どこも大丈夫ですから、少し落ち着きましょう」
そう言ってもオレの目から不安で涙があふれる。そんなオレを、先生がぎゅっと抱きしめた。
それはもちろん校則違反。
オレも先生がそんなことするとは思わなくて、驚きすぎて涙が止まる。
「本当に僕はどこも悪くありません。もし何か異変があったらすぐに病院に行きます。だからそんなに不安に思わないでください。大丈夫ですから、心配しないでください」
初めて感じる先生の体温と鼓動。そして優しく響く先生の声に、オレはようく落ち着いてくる。それが分かったのか、先生は一度オレの頭を撫でると優しく身を離した。
「さあ、入口まで戻って。そろそろ安田先生が来ますから」
そう言ってオレを入口まで連れていくと、自分は席へと戻る。とそこへ、タイミングよく安田先生がやってきた。
「おう、川嶋。今日は早いな」
その声に、オレは素早く涙を拭って笑顔で振り返る。
「おはようございます。学校に来るのが待ち遠しくて、早く来ちゃいました」
そう言って安田先生と休み中の事など雑談をしてオレは教室へ戻った。その時オレは加賀美先生を振り返る。するとそれに気づいた先生は声に出さずに唇を動かした。
『大丈夫』
本当に大丈夫なのだろうか。
だけどオレはそんな先生に小さく頷いた。
考えるとまた涙が出そうになる。
今この時期に病気が発覚しなかったということは、この後に発症して半年後には手遅れになり、そしてさらに四ヶ月後には亡くなってしまうということだ。
手遅れになる前に、病気を見つけなくてはならない。なのに自分はなんにもできないんだ。
いっそ全てを話してしまおうか。
そう思ったことはたくさんある。でもこんな話、誰が信じてくれるだろう。いくら優しい先生だって、無理だと思う。
オレだって、自分に起きたことじゃなきゃ信じなかった。
これから起こることを言い当てれば信じてくれるだろうか。そう思っても、先生に『10か月後に死にます』と言うことが出来ず、オレは結局そのまま先生を見守ることにした。
とにかく小さなことも見逃さないようにしよう。
今までは朝と放課後に準備室に顔を出していたけれど、オレは前の時のように廊下で声をかけたり、安田先生がいなくても準備室へと顔を出すようにした。
言葉を交わせなくてもいい。先生の顔を見られたらそれでいいんだ。
そう思ってオレは残りの高校生活を過した。けれど二学期が終わっても、三学期になっても、先生の様子に変わったところはなかった。
前の時は3年生を受け持ってて、傍から見てもかなり疲れた様子だったけど、今世はそんな感じは無い。それでも少ししんどそうに見えた時はすぐに病院へ行って欲しいとお願いした。でも少し過労気味だっただけで、重大な病気は見つからなかったという。
それでも、もしかしたら病気が進行しているのではないかと不安にもなったけれど、先生の顔色は明らかに前とは違って良かったので、オレも不安はありつつも、前ほどの心配は無くなっていた。
もしかして、未来が変わったのかもしれない。オレが前と違う行動を取ったことによって、先生の未来は変わり、病気にならなかったのかも。
そう思えるほど、先生は元気なように見えた。
そしてオレたちの卒業式が近くなる。すると先生は前と同じように、式のあと会いたいと言ってきた。
前と同じ。
だけどきっと、前とは違う。
オレはそれを、喜んで受けた。
そうして会う約束をしたオレは、前と同じように卒業式の日を迎える。
前の時と同じように、式のあと先生に会いに行く。するとやはり他の生徒に囲まれた先生には近づけない。すると先生の唇が動く。
『またあとで』
そんな先生にオレは頷いてその場を後にする。
不安が無いわけじゃない。
だけど前の時とは比べ物にならないほど、先生の顔色はいい。
だから大丈夫。
未来は変わったんだ。
そう思いながら、今回も一時間前に待ち合わせ場所に行く。
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