たまにはこんなファンタジーも

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そして卒業式の日。 その高校生最後の日も、オレは先生に会いに行った。残念ながら他にも別れを惜しむ卒業生がたくさんいて、いつものように二人では会えなかったけど、それでも別れ際に動いた先生の唇に、オレの胸は張り裂けそうなほど高鳴る。 『またあとで』 確かにそう動いた先生の唇に、オレは周りに分からないように小さく頷いた。 そして訪れた待ち合わせの時間、待ち合わせの場所。 オレは1時間も早くそこに着き、どきどきしながら先生を待った。 もしかして先生も早く来てくれるかも。 そう思いながら待っていたけど先生の姿はなく、約束の時間にも現れなかった。 少し遅れているだけだ。 そう思って5分、15分、そして1時間。 先生は現れない。 先生に誘われてから続いていたどきどきはいつの間にか消え、不安が心を埋め尽くす。 どれくらい待ったのか。 オレは既に時計を見ることをやめた。 辺りが暗くなり、空には月が輝き始める。 ・・・寒い。 冷えきった身体は小刻みに震え、なのに心は麻痺したように何も考えられなかった。 からかわれたのだろうか。 それとも勘違い? そう思ったけれど、オレはそれを先生に聞くことが出来なかった。だって先生だもの。連絡先なんて知らない。 だからそのまま、何も出来ずにその場を離れた。 それからどれくらい経っただろうか。 もうすぐ春休みも終わるという頃、高校の友人からメッセージが来た。そこにあったのは今年転任、辞任した先生たちのリスト。友人は元担任が転任したからそれを送ってきてくれたのだけど、オレはそこに先生の名前を見つけてしまった。 先生は学校を辞めていたのだ。 辞めるなんて話は知らない。本人からも聞いていないし、そんな噂もなかったと思う。だけど、オレが知らなかっただけかもしれない。 でもそれを聞く相手はいなかった。オレはオメガで友人たちもみんな同じクラスのオメガだから、アルファの先生と接点がある生徒はいない。 本来関わるはずのないオメガの生徒が、毎日顔を合わせるなんてオレくらいしかいない。 迷惑だったのかもしれない。 アルファの教師にとって、オメガの生徒は一番気をつけなければならない存在だ。出来れば近付きたくなかったかもしれない。なのに毎日会いに行ったのだから、ウザがられていてもおかしくはない。 だから最後に仕返しされたのかも。 どうせ学校も辞めるから、と・・・。 本当のところは分からない。だけど実際オレは約束をすっぽかされた。その事実が、オレの心を麻痺させ続けた。 あのあとどう過ごしたのかあまり覚えていない。 多分抜け殻のように、毎日部屋で過ごして居たのだろう。それでも時間は流れ、日々は過ぎていく。オレは大学生になり、そしてすぐ後に番になる彼と出会った。 オレは別に、先生になにかされた訳では無い。 あくまでも先生と生徒の域を出ず、気持ちを告白したことも、されたことも無い。ごく普通の先生と生徒だった。ただ最後に、約束を破られただけ。それすらも、今となっては本当に約束があったのかもあやふやだ。どこかにメモがある訳でもない。ただの口約束。本気にする方がおかしかったのかもしれない。 だけどオレの心は深く傷つき、他人に臆病になってしまった。彼も最初から好意的だったけど、それを勘違いしてはいけないと何度も自分に言い聞かせた。好きだと告白されても、オレは信じなかった。だけど彼は粘り強くオレのそばを離れず、思いを隠すことなくぶつけてくれた。 彼と出会って三年。 オレはようやく彼を信じ、彼を受け入れた。そしてそれから一年の交際を経て、彼はオレにプロポーズをしてくれた。けれどそれは、オレにとって衝撃的な告白を伴っていた。 『実は知り合いなんだ』 彼は先生と同級生で、親友だと言う。そして先生に言われてオレのところに来たのだと・・・。 はっきりいってショックだった。 彼がオレと出会ったのは、偶然でも運命でもない。最初から先生に言われて会いに来たのだ。 なぜそん事が・・・。 胸が痛すぎて潰れてしまいそうだった。 彼の優しさも、思いも、全部先生に言われたからだなんて。 本当じゃなかった。
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