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二年間の真剣な恋で受けた傷はオレの心を深く抉り、三年かけてようやく癒され、四年目にしてもう一度彼を信じようと思えた。
やっとそう思えたところで、先生の真実を知った。
こんなに苦しい思いをさせた先生を、恨んだこともある。
もしあの時先生が約束だなんて言わなければ、オレはこんなに傷つかなかったのに、と・・・。
その思いは苦しみを思い出す度に湧き上がり、いつしかオレの心を凍りつかせた。なのに先生は、もうとっくにこの世にはいなかったのだ。それどころか、本当に最期までオレを思ってくれていた。
オレの気持ちはぐちゃぐちゃだった。
なんで今になって、こんなことを知らされなければならないのか。
やっと・・・やっと前を向けるようになったのに。
本当はオレを思い続けてくれていた先生に、知らずに抱いていたオレの負の思いは、オレを再び地の底へと突き落とした。
知らなかったとはいえ、そんな先生を恨んでしまった自分が許せない。
しばらく心は混乱し、彼とも距離を置いた。
彼はオレを本当に好きなのだと言う。
だけど親友がどれだけオレを好きで、そしてどんな思いでそれを諦めて旅立たなければならないのかを知っているから、本当はオレのことを諦めようとしたと。だけどそんな彼の気持ちを知った先生が、最期に彼の背中を押したのだと言う。
『あの子には幸せになってもらいたい。だけど君にも幸せになってもらいたい。二人で幸せになってくれたら、オレはすごく嬉しい』
もちろんこれからもずっとオレを見守ろうと思っていた。だけどこの気持ちは隠していこう、そう思っていた彼はその言葉で思い直した。
それから彼はオレへの思いを隠さなくなった。
好きだと告白し、オレがその思いを受け入れるまでずっと言い続けた。
受け入れられないかもしれない。
だけどそれでもいい。
変わらず思い続ける人がここに一人でもいると分かってもらえたら、きっとオレの心の傷は癒えるだろうから。だから自分が幸せに出来なくてもいい。傷を癒して幸せになってもらいたい。それは親友の、そして自分の願い。
そう思っていたけれど、オレは彼を受け入れた。そして自分のそばで少しずつ傷を癒し、心を開いてくれるようになってくると欲が出てくる。この愛しい人を誰にも渡したくない。ずっと一生、そばにいたい。
だけどそうするには、親友のことを隠したままではいられなかった。
『君は知りたくなかったかもしれない。だけど僕は、あいつのおかげで君と出会い、君との時間を始めることが出来た。なのにあいつの事を悪者にしたまま、自分だけ幸せになんてなれない。真実を知って、君は苦しむかもしれない。オレのことを拒絶するかもしれない。だけどあいつの事を隠したまま、僕は君を本当には幸せには出来ないんだ』
先生の実家からの帰り道、彼はオレにそう言った。
『君からの連絡を、いつまでも待っているから』
最後にそう言って別れた彼に、オレはしばらく連絡が出来なかった。
混乱した頭はすぐには治らず、心はぐちゃぐちゃのままだ。
恨んでしまったことへの罪の意識。
本当は裏切らず思ってくれていたことへの喜び。
既にこの世にはいないという悲しみ。
そして、言葉には言い表せないほどの複雑な思い。
どれくらいそうしていたのか。
時間の感覚もあやふやで、オレはずっと部屋にこもっていた。だけどふと思ったんだ。どんなにこうしていても、先生が既にいない現実は変わらない。そう思ったら涙が溢れた。なんの涙かは分からない。だけど麻痺した感情がいきなり爆発して、オレは声を上げて泣いた。
泣いて泣いて涙が枯れた頃、先生の最期の言葉を思い出した。
『幸せになって欲しい』
そしてその言葉と一緒に、いつもそばにいてくれた彼の顔が浮かぶ。
オレは彼に連絡した。
そして彼のプロポーズを受けて結婚したのだ。
ちゃんと好きだったと思う。
考えるだけでどきどきして、夜も眠れないくらい忘れられなくて、会う度に顔が熱くなって胸が苦しくなるような思いではなかったけど、一緒にいてすごく安らげた。
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