たまにはこんなファンタジーも

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思い出した。 これは熱を出した時の記憶だ。 滅多に病気をしないオレが、珍しく高熱を出して学校を休んだんだ。 初めての高い熱に、オレは死ぬかもしれないと思ったんだっけ。もちろんそんな熱ぐらいじゃ死ななかったけど。でもこれは、その時の記憶だ。だけど本当に?これは記憶なの? 身体のだるさも、肌の感覚も現実のようだ。全く夢のような気がしない。 本当にどうなってるんだ。 訳の分からない状態にちゃんと考えたいけど、熱が出た頭は重くて痛くて、何も考えられない。そう思っているうちに、オレはまた眠ってしまった。 そして再び目を覚ます。 三度目の正直という言葉があるけれど、それはまさにそれだった。 目が覚めると今度は小学校6年生になっていた。季節はちょうど夏の終わりで、学校は秋の運動会に向けての練習真っ最中だった。そして何が三度目の正直かと言うと、この目覚め以降、オレの意識が途絶えることが無くなったのだ。つまり、目覚めてからずっと、これが続いているのだ。そうなるといやでも分かる。これが夢じゃないということを。 いきなり始まった、小学6年生の日常。 両親も友達も、家も学校もオレの記憶のままだった。と言っても小6の時の記憶など、事細かに覚えている訳では無い。でも何となく覚えていることが、実際に行われていくうちに明確になっていくのだ。 特に勉強面は明確だった。 だって、とりあえず人生を全うした人間だよ?小学校レベルの勉強なんて、御茶の子さいさいに決まっている。だけど初めは本当に夢だと思っていたから、普通にテストの解答を埋めていったら当然満点連発となり、オレは周囲を驚かせてしまった。それで危うく中学受験をさせられそうになったのだけど、本当のオレは当然普通に公立中学に進学したので、偶然を装い誤魔化した。だってその頃にはなんとなく、これは現実なんじゃないかと思っていたから、過去を変えてしまってはいけないと思ったんだ。 そう。 オレはこれが現実だと考えている。 目が覚めて、もう途切れない意識にオレは色々考えた。 実はもう死後の世界で、オレは人生の中で一番楽しかった時間をもう一度過ごしているのかもしれないとか、もしくは死んで生まれ変わったとか、さらにはまさかの時間を逆行したとかだ。 それで一つ一つを検証した。 一つ目は、今の前に二回目覚めた事を考えると、『一番楽しかった時間』という定義から外れてしまう。だって間違いなくあれは『一番楽しかった時間』ではないからだ。では楽しかった時間ではなく、何かしら記憶に強く残っている時、と考えても、熱を出した小3はともかく、保育園時代のお昼寝や今は大して大きな出来事ではなく、ごく普通の日常のひとつだ。そう考えると、この説は成り立たない。 そして二つ目は、現状のオレが記憶のオレと何も変わっていないことから違う事が分かる。 名前も両親も、家も学校も友達も、全てオレの持つ記憶と一致しているのだ。つまり、このオレは知らない他人じゃないと言うこと。なので生まれ変わりもない。 とすれば、時間を逆行したと言うのが一番しっくりくる。 実はまだ死ぬ直前の走馬灯の中説も捨てた訳では無いのだけど、本当にもう時間軸が飛ばないのだ。オレの周りの時間はきっちり24時間流れていく。だから夜寝ても、目覚めるとちゃんと次の日の朝なのだ。 じゃあなんで、前の二回は時間が飛んだのか。 それも考えたんだけど、ただ単に精神が幼かっただけなのかもしれない。だから急に大人のオレの意識が現れても、元々の身体がまだそれを受け入れられず強制的に眠ってしまったのでは無いだろうか・・・て言っても、本当のところはなんにも分からないんだけどね。 保育園の時の記憶って、よく考えたらオレの最古の記憶かもしれない。過去の記憶を遡ると、思い出すのは保育園の頃だから。それに小3の時のも初めての高熱で割と記憶に残っていたから、その辺も関係してるのかも。そう考えると、小6の今の意識が安定してるのって、オレの記憶でちゃんと覚えているのがこの頃からだからなんじゃないかと思う。
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