目薬ぽっちょん

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 お母さんの手をふりきって全速力で階下に逃げた。  いつもご飯を作ってるところ、キッチン……はお母さんが入って来た!  ダメ! カウンターを飛び越えてリビング側に逃げる!  お母さんが回り込んできた。だったら今度はこたつの中。ここはお母さんは入ってこれない。  こたつのすみにうずくまっていたらこたつ布団をはがされてしまった。四方向ぜんぶ。ひどすぎる。  お母さんの声は優しいけれど様子がおかしい。手に持ってるそれ、タオル? そんなのどうするつもりだろう。  急に記憶が巻き戻った。でっかいタオルで巻かれたことがある。ピノちゃんはいやがってたのに箱に入れられて、妹のチロルが白いタオルでぐるぐる巻きにされていた。  真っ暗な箱に入れられて、気づいたら「ビョウイン」にいた。体中ぐりぐりにいじられた。  あれぜったい、捕まっちゃダメなやつだ!  しゃがんで腕をのばしてくるお母さんの真横をすり抜けて、逃げるところを探す。チロルとよく一緒に遊ぶ段ボールハウス……すぐに来た、ダメ!  だったらこのおうちに来た頃、よく隠れてた横長のハウス。あれ、お母さんはぜったいに入れない!  ずぽっと勢いよく逃げ込んだら、入り口に白いネットみたいなものをかぶせられてしまった。  思い出した、あれに入っちゃったらビョウインに連れていかれる……  恐怖で体がふるえた。どうにかして逃げなきゃと思ったらうっかりネットに向かって走ってしまった。 「よーし! うまくいった! このまま紐を……」  お母さんの声が聞こえた。ザラザラしたネットが体にからみついてくる。あきらめたらお終いだ。ピノちゃんとチロルと離れ離れになってしまう。ぜったいあきらめない、ぜったいここから逃げるー! 「あっ! しまった!」  ほんの少しだけ開いていた入り口の方に頭をぐりぐりしたら、ズルリと体が抜けた。脱出成功。  今度はおかあさんがぜったいに登ってこれない本棚の上に逃げる。
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