1-1 青天の霹靂

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 冬の朝は、鬼のように寒い。  スカートの間から袖の弛みからマフラーの隙間から、冷たい風が流れ込んでくる。ついでに前髪を吹き飛ばし、頬を冷たさのかたまりで叩いてくる。そんな嫌がらせのような仕打ちに耐えながら、私たちは高校に向かうのだ。  そんな学校生活の中で、家でぬくぬくとできる長期休みがどれだけ貴重なものか。それなのに。 「ぐっばい私の冬休み……」  冷たい上履きに足を入れながら、私は悲しい溜息をついた。  まさか私が意識を失っていた期間が、冬休みにかぶっているとは。  冬休みを丸々潰してしまうなんて、致命的だ。なんという不幸だ。 「まあいいじゃないか。おかげで授業に遅れることはないんだし、さ」  教室に向かう途中で合流した和子が、もっともらしいことを言って眼鏡をくいを持ち上げる。はらたつ。  教室に入ると、私の事故について知っていたクラスメイトたちが、口々に退院を祝ってくれた。その優しさに、心が少しあたたまる。 「もう大丈夫なの?」 「うん大丈夫〜」 「よかった元気そうで」 「元気元気。ちょう元気」 「お正月に実家帰ったときのお土産あげるよ」 「わーありがとう。お煎餅好き」 「あ、長谷川だ。冬休み潰れてどんまーい」 「……」 「あ、長谷川」  ホームルームの後、退院祝いの挨拶もそこそこに、担任は私にこう告げた。 「冬休みの宿題、今週末までに提出よろしく」  そうして、私は再び絶望的な気分で、校長先生の長ったらしい始業式の挨拶を聞いていた。  真面目に話を聞いている生徒は、はたしてどれだけいるだろうか。めいめいが、横の友達とお喋りに興じていたり、久々の早起きにうとうとと寝こけていたり、私のようにぼーっと突っ立っていたり。横に控える担任も、あくびを噛み殺している。体育館全体が、弛緩した空気を纏っていた。  その空気の隙間を縫うように、何かがちくりと、私の背を刺激した。  誰かの視線を感じて振り返ると、そこには私の後ろに並んでいるクラスメイトと、他のクラスの人たち、あとは三年生と一年生がそれぞれ列を成しているのが見える。  ごく当たり前の光景に、私は気のせいかと首を捻って、前に向き直った。  校長先生の長い長い話が終わり、解放された全校生徒が一気に体育館外に放流される。私は流れる生徒の間を縫うようにして、和子の隣に辿り着いた。 「和子、さっき私のこと見てた?」 「別に見てないけど」 「そっかぁ。自意識過剰だったかな」 「自意識過剰かもね」  和子は、病室での大号泣はなんだったのか、すん、とした顔をしている。いつも澄ました顔をしているくせに、いざとなったら感情を爆発させてくれるやつなのだ。  私は、和子のそういうところが結構好きだ。 「和子、一緒にトイレ行かない?」 「行かん」 「ちぇっ」  さっそく振られてしまった私は、唇を突き出しながら、和子と別れて女子トイレへ向かう。出た頃には、人の波はあらかた消え去っていた。  早く行かないと大掃除の担当決めが始まっちゃうかな、と教室へ足を向けたとき。 「長谷川さん」  背後から、声を掛けられた。
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