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冬の朝は、鬼のように寒い。
スカートの間から袖の弛みからマフラーの隙間から、冷たい風が流れ込んでくる。ついでに前髪を吹き飛ばし、頬を冷たさのかたまりで叩いてくる。そんな嫌がらせのような仕打ちに耐えながら、私たちは高校に向かうのだ。
そんな学校生活の中で、家でぬくぬくとできる長期休みがどれだけ貴重なものか。それなのに。
「ぐっばい私の冬休み……」
冷たい上履きに足を入れながら、私は悲しい溜息をついた。
まさか私が意識を失っていた期間が、冬休みにかぶっているとは。
冬休みを丸々潰してしまうなんて、致命的だ。なんという不幸だ。
「まあいいじゃないか。おかげで授業に遅れることはないんだし、さ」
教室に向かう途中で合流した和子が、もっともらしいことを言って眼鏡をくいを持ち上げる。はらたつ。
教室に入ると、私の事故について知っていたクラスメイトたちが、口々に退院を祝ってくれた。その優しさに、心が少しあたたまる。
「もう大丈夫なの?」
「うん大丈夫〜」
「よかった元気そうで」
「元気元気。ちょう元気」
「お正月に実家帰ったときのお土産あげるよ」
「わーありがとう。お煎餅好き」
「あ、長谷川だ。冬休み潰れてどんまーい」
「……」
「あ、長谷川」
ホームルームの後、退院祝いの挨拶もそこそこに、担任は私にこう告げた。
「冬休みの宿題、今週末までに提出よろしく」
そうして、私は再び絶望的な気分で、校長先生の長ったらしい始業式の挨拶を聞いていた。
真面目に話を聞いている生徒は、はたしてどれだけいるだろうか。めいめいが、横の友達とお喋りに興じていたり、久々の早起きにうとうとと寝こけていたり、私のようにぼーっと突っ立っていたり。横に控える担任も、あくびを噛み殺している。体育館全体が、弛緩した空気を纏っていた。
その空気の隙間を縫うように、何かがちくりと、私の背を刺激した。
誰かの視線を感じて振り返ると、そこには私の後ろに並んでいるクラスメイトと、他のクラスの人たち、あとは三年生と一年生がそれぞれ列を成しているのが見える。
ごく当たり前の光景に、私は気のせいかと首を捻って、前に向き直った。
校長先生の長い長い話が終わり、解放された全校生徒が一気に体育館外に放流される。私は流れる生徒の間を縫うようにして、和子の隣に辿り着いた。
「和子、さっき私のこと見てた?」
「別に見てないけど」
「そっかぁ。自意識過剰だったかな」
「自意識過剰かもね」
和子は、病室での大号泣はなんだったのか、すん、とした顔をしている。いつも澄ました顔をしているくせに、いざとなったら感情を爆発させてくれるやつなのだ。
私は、和子のそういうところが結構好きだ。
「和子、一緒にトイレ行かない?」
「行かん」
「ちぇっ」
さっそく振られてしまった私は、唇を突き出しながら、和子と別れて女子トイレへ向かう。出た頃には、人の波はあらかた消え去っていた。
早く行かないと大掃除の担当決めが始まっちゃうかな、と教室へ足を向けたとき。
「長谷川さん」
背後から、声を掛けられた。
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