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私の頭からは、秋の終わりから事故の直前にかけての記憶が消え去っていた。
記憶がごっそり抜け落ちている感覚はない。
その間、私は確かにごくごくいつも通りの学校生活を送っていると思っていたのだ。
いつも通り学校へ行って、授業を受けて、家に帰って、
そうして、いつも通りの日常を過ごしていると思っていた。
でも、具体的に何をしていて、どんな出来事があったのか。
聞かれても、思い出せない。
別に、いつも通りのフツーの日常があったのではとしか答えられない。
私の人生を綴った本があったとしたら、その間だけ、ページはあるものの、虫食いだらけで中身は読めないといった感じだ。
まさかその間に、生島先輩とお近づきになり、あわや付き合うなんてことになっていたとは。
「……ほんとに、生島先輩と付き合ってるんだ? 私」
「付き合ってる……はず」
「え、は、なに、はっきりしてよ」
「いやー明確に付き合ってるって言われたわけじゃあないんだけどさ」
和子は腕を組み、目を閉じる。
「あれはどうみても付き合ってた」
どうみても付き合ってたんだ。私と生島先輩。
「話したことすらなかったのに、なぜそんなことに……」
「なんか本の貸し借りとかしてるっぽかったよ。あ、ねえねえ」
和子はちょうど通りかかったクラスメイトを呼び止める。
「充と生島先輩ってさー、付き合ってると思う?」
呼び止められた女の子三人組は、きょとんとして顔を見合わせた。
「うんー」
「あれはねー」
「付き合ってるよねー」
三人は口々にそう言った。
「ていうか、なんで充ちゃんいるのに私達にそれ聞くの?」
「え、付き合ってるんじゃないの?」
これ以上は私に追及が飛んできそうだったので、「へへ」と笑って誤魔化して会話を切り上げた。再び、和子と顔を見合わせる。
「……それで、私はなんて?」
「『でへへ』とか『ふへへ』とか言ってたね」
「……」
「あ、『デュフフ』だったかも」
「それは嘘でしょ!? 捏造すんなっ」
ツッコミを入れながらも、私は事実を受け止めきれずにいた。というか、理解が追いつかない。頭を抱える私に、和子は「それじゃあさ」とジャムパンの袋をバリッと開けた。
「とりあえず、生島先輩に聞いてみたら? まだいるかもよ」
私はハッとして顔を上げた。確かに、生島先輩に確かめるのが一番早いし正しい。
それに、本当に付き合っていて、そのことを忘れてしまっているのだとしたら。
ちゃんと話をしないといけない。
私は「そうだね」と神妙に頷いた。
「和子、一緒についてきて」
「無理」
「なんで!?」
「私、冬休みの宿題終わってなくて、この後先生から呼び出し食らってるんだよね」
がんば、と和子はジャムパンをくわえながら親指を立てた。
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