私は声帯を失った

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私はスマホを手に取った。 まずは何を言おう。 録音ボタンを押し、私は話す。 「ありがとう」 最初に録音する言葉はこれにした。 さっそく、再生してみる。 「ありがとう」 自分の声を自分で聞くのはなんとなく恥ずかしい気がする。 しかし、これから私は感謝の言葉を自分の声では言えなくなってしまうのだ。 もっと気持ちを込めて言わないと。 「……ありがとう……」 録音しては再生し、しっくりこなくて消去。もう一度録音…… いったい何回繰り返しただろう。 だんだんと自分の声に慣れてきた。 聞けば聞くほど、自分の声に愛着がわいてくる。 あぁ…… この声ともお別れとなるのか。 録音された声は、もう一人の自分だった。 何度も録音しているうちに、気持ちを込めた言い方がだんだんと分かってきた。 たくさんの「ありがとう」を録音した。 ちょっとしたお礼用の「ありがとう」から、とても重大なことのお礼用の「ありがとうございます」まで、いろいろな「ありがとう」を録音した。 他にはどんな声を録音しておくといいのだろう。
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