2 滑走騎士のバトル

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2 滑走騎士のバトル

 細い道から『滑走騎士団バトル協会・租葉野(そばの)地区消防団事務所』と書かれた建物に美沙は入る。地区のコミュニテイーセンターが併設されていた。  バトル協会は、世界で公認された組織だ。AIが定めた法律が守られているか監視するオンラインシステムから、バトルと制裁を任されている。地区ごとに消防団として設置されていた。美沙は消防団の団長と言う公的な役職もある。  美沙は応対カウンターを前にした桜庭皐月へ挨拶する。 「皐月さん、おはよう」  皐月は事務と経理を担っている。 「美沙さん。おはよう」  皐月はデスクのパソコンから顔をあげると、細い眼鏡を、ちょっと動かして微笑む。 「3件の連絡があります。地球合衆国になる調印式が行われる日が決まりました。地区長から自家栽培の紅茶が差し入れです。そして、あれですよ。東京市の山下さんからオンライン会話の申し込み。どうします」  美沙はローラースケートから室内スリッパへ履き替えながら言う。 「山下さんか。予想はつく」  山下賢は東京市の行政委員だ。話は予想できる。権力争いに協力して欲しいとお願いされていた。  思えば、AIが政治や会社の経営を任されてから平穏だ。  国会議員という高額所得者は必要ない。 ただ、東京市や都市部では行政委員たちが古代からの名残で、金と言葉の魔術で行政をしていた。  皐月にとっては重要なことから話したつもりらしい。 「いよいよ決まりますね。地球合衆国」  癖のある長い髪を揺らして椅子ごと美沙へ向かう。 「ちょっとメッセージも頼まれていたな。録音で良いか」  顔を出すのは控えたい美沙。話しながらソファーに座る。バトル関係者なら、喧嘩の強いのは分かるが、昔の人がいう、貫禄はない普通の女の子だ。 「いつもですね。やはり、あれですか」  皐月も、美沙が童顔なのを気にしている、と分かっていた。 「世の中は見た目で判断する者もいるらしい。知らない人が虚仮にする」 「その意外なところが良いんですけどねー」  皐月は細い眼鏡を、ちょっと動かして微笑む。  皐月がレズビアンだと知る人は少ない。意味深な視線に気付いている美沙だが、応えられない。仕事のほうへ話題を向けた。 「それより。夜の爪とかいうの。なにか情報はないか」  如月の言ってたのが気にはなる。皐月は検索して話す。 「夜の爪。大人向けサイトにあります。興味がありますか」  不機嫌そうに言う。皐月は美沙の男女関係を警戒しているらしい。 「そういうエッチなものじゃないって。ある組織が、内緒で動いてるらしいから。調印式あたりから何かやりだすはず」  美沙も用心はしたい。  皐月も仕事なら能力を発揮できる。頼もしい相棒なのだ。英語でナイトネールを思い浮かべたようだ。 「nnですかね。東京市でも記号みたいに表記されたタグがあります」 「それかな。内容は」 「挨拶ぐらいでしょうか。それが暗号かもです」  たぶん、予想は有ったている。かなりの人間が関係しているらしいとは分かった。 「まともにくれば、話もできるだろう。しかし、地球合衆国の調印で何かが動くのは確かだ」  美沙は滑走騎士団のsnsへひとこと記した。すぐに何人かが反応する。美沙が思うより影響力はある証拠だ。  地球合衆国も美沙は、おまけだと感じている。 「地球がひとつになるわけだな。それは、良いことだろう」  国同士の小さな争いもなくなると予想した。 「美沙さんの活躍があったからですよ」 「何もしてないよ」  地球がまとまった要因を作ったとは思ってない。 「そうだね。なにもしないから良いのかもしれない」  皐月が微笑みながら言う。美沙が女王と呼ばれるのは、ほかに理由があるらしいが、それには気づいていない美沙。 (世界大会でチャンピオンにはなったけどねー)  女王と呼ばれるのには恥ずかしさもあった。  話す間にも山下からオンライン会話の通知がくる。美沙はテーブルに収納されたパソコンを開いた。     次ページへ
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