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1 出逢い
(まだ、ついてくる)
佐藤美沙佐藤美沙は家の門を出たときから、誰かの気配がしている。後方5メートルぐらいか。距離を縮められていた。
広がる水田に沿う舗装路。並木道を美沙は桃色のローラースケートで滑走する。空色のヘルメットに桃色のリュックサック。束ねた長い髪が背中へ伸びて風にたなびく。
(地区団長と知ってのことか)
美沙はローラースケートを履いてバトルをする、滑走騎士団の女王と呼ばれてもいた。小高い胸のふくらみにソバノ地区と書かれた空色のTシャツにパンツ姿。梅雨あとの湿った空気を思い切り吸うと、朝焼けの匂いが微かに残っていた。
地区のまとめ役もしている美沙。女王と呼ばれるのに戸惑いもある。団長の立場は自分の力を評価された結果だ。
相手が正々堂々と名乗ってくるなら相手もしてあげようと思う。
「会話オン」
左腕につけた時計型の共用トランシーバーをオンにする。百メートルぐらいなら送受信が同時にできる。
「誰なんだ、お前は」
声をかけるが、息遣いや声もない。相手はオフにしているらしい。遠くで微かに会話は聞こえた。共有の電波だからプライバシーはない。
(ストーカー野郎だ。決着つけよう)
話す必要はないと判断した。
「会話オフ」
送受信を停止。
キックした左足を戻して、身体を捻りバックターン。
リュックサックが揺れたのを気にしている暇はない。
右足でキック、左足を軸にして、相手を蹴り上げる準備。
「居ない」
誰も居なかった。
朝8時の日差しが美沙の顔を照らす。大きな目に、まだ丸みのある顎の線。きゅっ、と結んだ口元は艶のある薄いピンク。
なにかを勘違いしたかと思う。右足を降ろして、ローラーを止めた。
後ろから近づくローラーの擦れる音。誰かの声。
「さすが。二十歳になってもお転婆だな」
かなり近い。相手の言葉の意味はあとから考える。
(やられる) 素早く両足を屈伸、後方へ跳んで三回転スピン。
(逃げたか)
手ごたえがない。
かしゃっ、着地してローラーを止める。
居た! 男が右側に立つ。
「なんのつもりだ」
美沙は言葉と似合わず柔らかい声で言いながら相手を睨む。
(女だからと虚仮にするなよ)
その前に、童顔なのも相手から甘く見られていると知っていた。
相手は大袈裟に笑う。
「私の台詞だがなー」
笑い声に混ざり聞こえた。肺活量は豊かなようだ。額の広い、逆卵型の顔。美沙は会ったこともない。ポロシャツ姿だから、これから仕事でもないだろう。
さて、冷静に考える。たしかに、まだ攻撃も仕掛けられていない。相手がヘルメットを脱ぎ、短い髪を右手でかき上げる。表情を読んでも、攻撃は来ない雰囲気。
「何か用か」
美沙は用心深く、ぶっきら棒に言う。
(早とちりか。ここで、ごめんなさい、なんて言わないもんね)
美沙は素直さが無くなったと自分でも思う。複数の男に身体が弄られて辱めを受けたこともあり、警戒心が強い。
しかし、話し合えるなら、聞いてあげようとも思う。滑走騎士は最終決着にバトルだが、嘘や我欲のない話し合いを望む集団だ。
相手はローラーを進めたいのか左足を上げるが、ためらったのか降ろすと話す。
「私は如月。美沙さんと同じ純粋な地球人だ」
「それで、ストーカーか」
美沙も新地球から、この惑星ネクストアースへきたが、同郷という理由で気は緩めない。一歩左足を踏み出した。
強気で立ち向かうのも覚えた。大人しくすればつけ上がる人もいたからだ。いまさっき会った男を信用しない。
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